MENU

日本で災害が発生した時、為替相場が円高に動きやすいのは何故?

 

為替相場が変動する要因は、

  • 経済成長率(景気動向)
  • 地域の安定性(戦争やテロ)
  • 要人の発言(心理的影響、政策変更)
  • 金利政策
  • 投機的な行動

などです。

そういった基本的な要因と「日本の災害発生」はどのような関連性があるのでしょうか?

「風が吹けば桶屋がもうかる」という理屈なのでしょうか?

このコラムでは災害発生時と円高の関係についてご紹介します。

目次

日本に災害が発生すれば「円安になるはず」?

災害は、テロや戦争と同じように「破壊」が発生します。家屋が壊れて、人が亡くなり、家財も壊れて失います。

そういった意味で言うと「日本で災害が発生する=円が安くなりドルが高くなる」と言う結論になりそうです。

しかし、為替変動のチャートを見るとそのようになっていません。

円安ではなく円高になっているのです!

リパトリエーションとは

リパトリエーションとは帰還するという意味です。

金融で言うと、海外に投資していた資産を本国の通貨に換える(資産を帰還させる)ということなのです。

例えば、日本の証券会社が海外の株式を売却して日本円にする事を言います。

では東日本大震災が発生した時に、海外にある資産を売却して日本円に替える必要性はあったのでしょうか?

確かに東日本大震災で1兆2千億円程度の保険金が支払われています。しかし、これくらいの金額で為替は動かないでしょう。

日銀の為替介入は、通常は数兆円規模と言われていますが、為替介入があった直後は動きますが、直ぐに戻ります。

だから1兆2千億円程度は、全く影響なしと言ってもいいのではないでしょうか。

それと保険金は一度に全部支払われる事はありません。申請から支払いまでにはタイムラグがあります。

保険会社によりそのタイムラグが違っていますから、為替を変動させる規模の日本円を一度には買われないでしょう。

以上の推測から言えることは、「リパトリエーション」は発生していないと言ってほぼ間違いはありません。

大震災直後から10円ほど「円高」に動いたのは事実

しかしながら当時のチャートを見ると、震災直後に円高となり、最大で10円ほど為替が変動していたのは事実です。

過去30年間の値動きで見てみましょう。

[図1:過去30年のドル円チャート]

次に、阪神大震災のときのチャートを見てみましょう。

震災発生後、一気に円高方向へ動き、史上最安値を更新。その後、大きく上昇しています。

[図2:阪神大震災時のドル円チャート]

次に、東日本大震災時のチャートを見てみましょう。

[図3:東日本大震災時のドル円チャート]

こちらも、発生後に史上最安値を更新。その後、何度か上下しましたが、結局上昇しています。

ドル円は非常に取引人数が多いため、「史上最安値の更新」はそうそう起こる現象ではありません。

通常では考えられないほど膨大な分量の売買が発生したことを意味しています。

投資家マインドが影響した?

では、なぜ為替が円高に動いたのでしょうか?

そして付け加えるなら、どちらの時も円高に振れた1年後には、為替水準は元に戻っています。

これは、やはり投資家のマインドが影響していると思われます。投資家は過去のトレンドを学び記憶しています。

阪神大震災の時の「円高」もトレーダーの頭にあったのでしょう。

東北大震災の時には、そのマインドが影響したのではないでしょうか?

「震災の後は円高だったから、今回も円高に向かうだろう」という心理です。

東日本大震災後の株価の急落については、海外投資家が株の売却で損失を出すよりも、ここは耐えて含み損を受け入れるという判断をして、証拠金を積み増す為に「円」を必要としたのではないかとの分析もあります。

定性的に理由を推定すれば、以下のようになります。

  1. 保険会社が保険金支払いのために海外の資産を円に換えた
  2. 製造業が壊れた社屋や設備を再投資する為に円を買った
  3. 投資家や投機筋が反射的に円買いに走った
  4. ドル売りのトレンドに投機筋が便乗してドル売りトレンドを強めた

以上4つくらいの理由が考えられますが、先ほど述べたように、1は金額的に相場を変動させるほどではなかったと判断できます。

2のケースですが、設備投資は震災後かなり時間がかかるものであり、トヨタ自動車など財務体質の強い会社は円を買う必要はなく、内部留保で賄えます。

また、投資全体の金額は為替を変動させるほど大きなインパクトは持たないでしょう。

結論としては、複合要因で円高になったと考えるのが妥当です。

すなわち投資家の頭には「震災後は円高」と阪神大震災で学習していたため、東日本大震災でも直感的に円を買う行動に出たと思われます。

そして円高トレンドが出来たところで、投機筋のマネーが大量にFX市場に流入して、大きな円高トレンドを形成したのではないでしょうか。

また、個人投資家のマインドに投機筋が便乗したことで、過去のトレンド(阪神大震災の円高基調)を知らない個人投資家が設定していたロスカットを刈り取っていったと考えられます。

何も知らない投資家は「ロスカット」で損害を出し、投機筋はロスカット狩りで大儲けをしたのではないかと推測できます。

災害が発生すると「当該国の通貨は売られる」が常識

世界の常識は、災害の発生した国の通貨は売られます。

最初に述べたように、災害が発生すれば当該国の信用がなくなり、その国の通貨は弱くなるからです。

その点、日本は特殊な例だと考えたほうがよさそうです。

日本は何故、世界の常識に従わないのでしょうか?

いくつか理由はありますが、日本は相対的に余裕があると考えられるのではないでしょうか。

震災で必要とするお金は国内で賄えるため、わざわざ海外にある資産を売却して円に換える必要がなかったのです。

また、世界から日本人が信用されているのも要因だと思われます。

震災を契機として「復興需要」が発生し、日本は元気になるだろうと言う海外の期待があるのではないでしょうか?

それは太平洋戦争からの奇跡的な復興を世界の誰もが認めて、日本人に対して良い感情を持ってくれているからだろうと思えてなりません。

大震災時でのトレーダーの行動はいかにあるべきか?

トレーダーには、それぞれ環境が違いますので一概には言えませんが、災害を福音と考えるようなトレードは悲しいものです。

災害(不幸)をお金に換えると言うのは、「日本人的精神」に反しているように思えてなりません。

もしトレードを行うならば、利益のうちいくばくかを義援金として寄付するなど、復興に役立つことを考えたいものです。