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加熱と沈静化を繰り返すFX業界の激しい「スプレッド競争」

 

FX取引をするうえで、必ず覚えておきたい用語のひとつが「スプレッド」です。

英語で「広がる」という意味ですが、FXの世界では、提示レートにある買値(Bid)の売値(Ask)の差を指した用語です。

この「スプレッド」は、トレーダーにとってもFX業者にとっても非常に重要な存在です。

なぜならば、トレーダーにとって唯一と言っても過言ではない取引コストだからです。裏を返せば、FX業者にとってもっとも重要な収益源ということです。

トレーダーは当然、安い(狭い)スプレッドに魅力を感じますので、FX業者はこれまで激しいスプレッド競争を繰り広げてきました。

その歴史を紐解くと、FX取引で勝ち組となるために必要なことや、自分に合っているのがどんな業者なのかも見えてきます。

目の前の取引だけでなく、長期にわたって勝ちを築いていくために、これまでの経緯を振り返っていきましょう。

目次

悪質業者も多かったFX黎明期

FX業者は、最初からスプレッドのみで収益を得ようと思っていたわけではありません。

当初は、株などと同じように、1回の注文ごとに手数料を徴収していました。

しかし、まだ規制が少なく、比較的低資本で参入できたため、業者が乱立。過当競争状態に陥ります。

そうなると、顧客を集めるため手数料の引き下げ競争が始まるのは自然の流れです。

そのうち、株式取引との差別化を図る狙いもあって「手数料無料」が当たり前となり、スプレッドで収益を得るようになりました。

そのスタイルもスタンダード化すると、次はスプレッドを狭くするしかなくなります。

2009年に、現在はトレイダーズ証券に吸収されたエンコムレコードが、「スプレッド0.1銭」を売りにして新規参入。そのうち、「スプレッド0銭」の業者も登場するようになります。

もちろん、これにはカラクリがあります。まず、常時0銭ではなく、「0銭から」であるケースもありました。

また、スプレッドは0銭に固定しつつ、スワップポイントを下げることで利益を確保していた業者もいました。

そこまで利益を薄くしてでも顧客を確保したい、という業者の本音が透けて見えますが、裏を返せば、それほど“うまみ”があるビジネスだとも言えるでしょう。

顧客を1人でも多く確保し、それぞれの取引量を増やせば増やすほど利益になるのだから当然です。

そうした“うまみ“を求めて、不当に狭いスプレッドを提示するといった悪質な業者も、次々に参入してきました。

トレーダーにとっては、取引の立ち回り方に腐心する以前に、業者選びを慎重に行わなければならなかったのです。

悪質業者の脆弱な取引システムも問題に

悪質な業者が入り交じり、混乱を極めていた当時のFX業界で、トレーダーが注意しなければならないポイントがありました。取引システムの安定性です。

FX取引において、取引システムの安定性は命綱とも呼べるものです。

システム障害が頻繁に起きたり、スリッページ(注文価格と約定価格に誤差が生じること)が多発したりしては、安心して取引を行うことができません。

しかし、顧客をかき集めることだけに意識を集中させるFX業者の中には、残念ながら脆弱な取引システムしか持たないところも数多くありました。

システムへの投資は一定の資本が必要ですので、目先の利益だけを求めて低資本で参入してきた悪質な業者が対応できないのは言うまでもありません。

そうした状況を踏まえ、徐々にスプレッドの広狭よりも、システムの安定性を売りにする業者も出てきました。ある意味で、ようやくFX業界が成熟してきたとも言えます。

トレーダー保護を目的とした規制も強化されていく

FX業界が成熟してくるに従って、トレーダーを保護するための規制も徐々に導入されるようになりました。

ターニングポイントとなったのは、2010年の「全額信託保全義務化」です。

それまで、トレーダーから預かった証拠金の管理は、会社の資金と分ければ問題がありませんでした。

実質上、証拠金が保全される保証はどこにもなかった状態だったのです。

しかし、「全額信託保全義務化」によって、証拠金の管理先が「信託銀行への金銭預託」のみに限られたのです。

本来当たり前の話ですが、トレーダーから預かったお金をそのまま信託銀行へ預けるため、たとえ業者が倒産しても証拠金は戻ってくるようになり、トレーダーにとっては安心要素が増しました。

逆に、業者にとっては資金力と信用がより一層問われるようになったため、悪質な業者が次々に淘汰され、実に半数近くの業者が消えていったのです。

生き残った業者も、無理にスプレッドを狭めていくことに限界を感じたのでしょう、徐々に競争は沈静化していきました。

しかし、その状況も長くは続きませんでした。

2012年にはサイバーエージェントがスプレッド縮小キャンペーンを行い、GMOクリック証券も追随したため、またもやスプレッド競争が激化。

店頭FXへの課税税率が引き下げられたこともあり、業界内の競争は激しさを増していきます。

しかし、それまでのような不当なスプレッド提示はなくなり、健全な取引が行われるようになってきました。

スプレッドだけでなく独自性を打ち出す業者が増える

一方、トレーダーを保護するための環境も徐々に整備されていきます。大きかったのは、2014年の規制です。

不公平なスリッページが全面的に禁止されました。

スリッページは、先にも触れたように注文価格と約定価格に誤差が生じることです。

トレーダーにとってマイナスになることもあれば、プラスになることもあるわけですが、それまでは、トレーダーにとって不利に働いたスリッページのみを有効としていました。

つまり、不利な価格で取引を成立させ、収益を稼いでいたわけです。

この規制に従わない場合は、最大1億円の過怠金を課すという厳しいものだったため、自ずと安定性の高い取引システムの構築が求められるようになりました。

ようやく、トレーダーが安心してFX取引が行えるようになったと言えます。

こうして安全性の高い取引環境が整っていく中で、FX業者も単純にスプレッドの広狭だけを売りにすることはなくなってきました。

もちろん、現在もスプレッドをめぐる競争は続いていますが、「0銭」というような刺激的な謳い文句でトレーダーを“釣る”のではなく、「スプレッドの狭い業者」は0.3銭近辺でほぼ横並びになっています。

また、取引通貨数が増えるほどスプレッドが縮小するプランを用意したり、固定ではなく取引量に応じてスプレッドが変動するスタイルにしたりと、それぞれ独自性を打ち出すようになってきました。

一方で、スプレッドや手数料が多少割高でも、高機能チャートなど分析ツールの充実を売りにすることで、トレーダーから信頼を集めている業者も出てきています。

長期のパートナーとして信頼できるFX業者を選ぶには

FXが日本でスタートしたのは1998年。まだ20年足らずの歴史ですが、混乱を経て、ようやく安定期に入ってきたのが現状です。

業者もトレーダーも、目先の利益を確保しようとするよりも、安定した取引をしていくためにどうするべきかを考えだしたように感じます。

まだこれから、スプレッドをめぐる競争が再び激化する可能性は十分にあるでしょう。

しかし、これまでの歴史を振り返ると、いたずらに競争を煽ることは業者にとってもトレーダーにとってもマイナスであることがわかります。

トレーダーにとってFX業者は、長期間取引を続けていく大切なパートナーです。

取引コストの面からも、スプレッドを重視するのはもちろん大切ですが、それ以外の要素もしっかりと考慮すべきだということを、ぜひ過去から学んでほしいと思います。