贈与税の非課税制度を活用しよう!相続時精算課税制度を徹底解説!
贈与税の非課税制度はいくつか設定されています。贈与税は税率が高く定められているので、このような非課税枠を使わないと、多額の税金を支払わなければならなくなりますので注意が必要です。
逆に、賢く非課税制度を活用すると、節税になるということでもあります。
ここでは、相続時精算課税制度について説明していきます。
この制度はメリットとデメリットが多く存在するため、その人の状況によって、利用した方がいい人、利用すべきでない人がいます。
自分が一体どちらにあたるのか、という判断をすることが難しいため、利用者がなかなか増えず、少ないのが現状です。
しかし、制度をしっかり理解し、メリットが多いのであれば利用すべき制度です。
この制度をしっかりと理解し、賢く利用できるようになりましょう。それでは詳しく見ていきます。
目次
相続時精算課税制度とは?わかりやすく説明します
相続時精算課税制度とは、生前に多額の財産を非課税で贈与できる制度です。
一般的な贈与である「暦年課税」と違い、贈与する側とされる側に条件があるのが相続時精算課税制度となっています。
その条件とは、「贈与する側は60歳以上の父母または祖父母であること」「贈与される側は贈与者の推定相続人である20歳以上の子供や孫でなければならない」ということです。
この条件を満たしていれば、2500万円までの贈与は非課税となります。
また、2500万円を超えた贈与に関しては、一律で20%の贈与税が課されることとなっています。
贈与が行われた時、この条件を満たしていれば、相続時精算課税制度を選択することができますが、もしも贈与者が死亡した時には、この制度によって贈与された財産を、遺産に加える形で相続税が計算されることになります。
相続発生時に、贈与された財産も合わせて相続税を計算されてしまうのであれば、メリットは何?と少し考え込んでしまいますね。
ここのところがよくわからず、疑問に思う人が多いようです。しかし、この疑問は、制度を良く知ることで解消できます。それでは、この制度のメリットについてみていきましょう。
相続時精算課税制度、この制度の目的とは?
相続時精算課税制度ができた目的ですが、相続が発生する前に、遺産を子供に相続してもらい子供が裕福になることで、お金をたくさん使ってもらい、景気回復に役立てよう、社会にお金を循環させていこうという狙いがあります。
相続、と聞くと「多額の相続税がかかる!」と身構えてしまいがちですが、実際のところ、かなりの富裕層以外はほとんど相続税がかからない仕組みとなっているのです。相続が行われた件数のうち、実際に相続税が発生したのは1割未満とのデータもあります。
相続税の計算では、基礎控除3000万円に加え、法定相続人×600万の控除がありますから、4人家族で父親が亡くなった場合、3000万+(600万×3人)=3000万+1800万=4800万円 となります。この4800万円を超えないと実際の相続税はかかってきません。また、配偶者控除は1億6000万円までの控除がありますし、またこれらの他にも様々な控除がありますから、実際に相続税がかかってくることの方が少ないのです。
このように、相続の時に相続税がかからないのであれば、その人達が生前贈与した場合にも贈与税がかからなくして、贈与者が死亡する前の遺産相続を促そうという狙いがあります
そうすると、子供も助かりますし、お金をため込まず使ってもらえると想像できますから、国としても景気がよくなるのではないか、と考えたわけです。
また、相続税が発生しないのであれば、国としてはいつ相続があっても税収面ではゼロであるわけですから、国としての損得もなく、どちらで相続してもらっても意味は同じ、ということにもなります。
基本的には、「相続税がかからない人のために生前贈与する場合にも贈与税がかからないようにした」という制度ですから、相続時に多額の相続税の支払いが見込まれるような人は、メリットとデメリットの両方をしっかりと考え合わせ、制度利用を慎重に考える必要があります。
相続時精算課税制度のメリットとは?
相続時精算課税制度のメリットはいくつかあります。
それぞれみていきましょう。
メリット1.2500万円までという多額の贈与が可能
相続が発生した時には、この制度を使って贈与された分も相続財産として足されて計算されますが、生前の贈与で一度に2500万円までが非課税というのは、やはりメリットが大きいといえます。
暦年課税では年間110万円までしか非課税にならないので、比べてみると贈与可能額の大きさがわかりますね。
また、この制度を使い子供が30代や40代の、一番お金が必要であろう時期に贈与してあげることで、金銭面で助けてあげることができます。自分の財産を「役に立つお金、活きたお金」にすることができます。
メリット2.自分の意思で財産分与ができる
この制度を利用する場合のメリットの一つは、自分が生きている間に、自分の意思で、誰にどれくらいの財産を分けるかということを決めることができ、実際に実行できる(贈与できる)ということです。
遺産争いを防ぐことにもなりますし、自分の死後に、自分のあずかり知らぬところで財産が分けられるよりも、自分の意思で自分の財産を渡したいと考える人がいるのも当然ともいえます。
この制度は、ひとりひとりが暦年課税にするか、相続時精算課税制度を利用するかを選ぶことができるので、例えば父親から子供への贈与は相続時精算課税制度を使い、母親から子供への贈与は暦年課税(年間110万まで非課税。一般的な贈与)とすることもできます。
しかし、一度相続時精算課税制度を選んでしまうと、暦年課税に戻すことはできないので注意が必要です。
メリット3.収益物件の収益部分は、相続税計算時には加えられない
収益物件に関しては、相続を待たずに贈与をした方が相続税対策になることがあります。
例を見てみましょう。
父親が駐車場経営をしていたとします。毎月20万円、年間240万円の利益が上がっています。
この駐車場をずっと父親が保有していると、毎年240万円の利益は父親の収入となるため、父親が死亡するまでには相当の利益が積み上がっていることとなります。
この利益は父親名義ですから、死亡するときには父親の預金が増えていることとなり、この多額の収益金にも相続税がかかってくることとなります。
しかし、この駐車場を、例えば父親が死亡する10年前に、相続時精算課税制度を使って子供に贈与したとします。
すると、死亡するまでの10年に積み上がるであろう利益、240万×10年=2400万円は、子供の収入となるので、相続税の対象にはなりません(実際の利益は経費等を引きますが、ここでは無視します)。
つまり、収益分に対する相続税がかからないことになるので、節税効果が見込めます。
メリット4.収益物件が相続時に値上がりしていたとしても、評価額は贈与時の額となる
この利益に対する節税効果に加え、もう一つ利点があります。
それは、相続時に駐車場の土地が値上がりしていたとしても、相続時精算課税制度を使って贈与された土地の評価は、贈与された時点の評価額となり、相続時の土地の評価額は使わないということです。
例を考えてみましょう。相続時精算課税制度を使って1500万の評価額の土地を贈与したとします。相続が発生した時には、その土地は3000万円まで評価額が上がっていました。
この制度で贈与された財産は相続税の計算対象となりますが、その土地は3000万ではなく、贈与時の評価額「1500万」として計算されることになっています。
つまり、土地の値上がり分だけ節税できるということになるのです。収益物件に限らず、贈与する土地などの値上がりが見込まれる場合は、早めに贈与しておいた方が値上がり分の利益を節税することができます。
相続時精算課税制度のデメリットとは?
この制度には、デメリットも多く存在します。それでは詳しくみていきましょう。
デメリット1.この制度を一度使うと、暦年課税に戻すことができない
相続時精算課税制度選択届出書を一度提出すると、撤回することができず、暦年課税に戻すことはできません。
ですから、最初に届け出を出す時点で、よく考えてから提出する必要があります。
デメリット2.生前贈与を受けた財産を物納することができない
相続において、本来であれば、相続した土地や建物などを物納することができます。
しかし、この相続時精算課税制度で贈与を受けた財産に関しては、物納することができないと定められています。
相続が発生したときに、この贈与を受けた財産を差し戻して相続税を計算しますから、もし相続税が発生した時には物納が不可能なため、現金が必要になる、ということを表しているのです。
よって、将来相続時に「相続税が発生しそう」であると見込まれる場合は、慎重に考えなければなりません。
デメリット3.不動産を贈与された場合にはコストが高くなる
通常、相続時に土地を相続した場合は登録免許税が0.4%となっています。
しかし、生前贈与の場合は登録免許税が2%かかり、加えて不動産取得税もかかってきます。
将来その土地がどれくらい値上がりしそうかということと、費用が割高になることを考え合わせ、生前贈与をするかどうかを決める必要があるでしょう。
デメリット4.贈与財産は相続時に小規模宅地等の特例が受けられない
相続時には、一定の条件を満たせば「小規模宅地等の特例」を受けることができ、評価額を最大80%低くすることができます。
1億円の土地でも、この特例を受けることができれば、評価額を80%減額してもらうことができるので、「評価額は2000万円」とすることができるのです。
土地の広さの条件もありましたが、平成27年1月1日よ240㎡から330㎡に拡大され、納税者にとってはより恩恵を受けやすくなっています。
細かい条件等は割愛しますが、この特例を利用した方が節税になる場合もあるので、土地の生前贈与は慎重に考える必要があります。
デメリット5.手続きの手間がかかり、また制度の利用者が制限されている
贈与税が発生しなくても申告しなければならないこと、また、最初に説明したように、この制度を利用できる人が直系親族間の贈与に限られ、かつ年齢制限もある、というところがデメリットとなっています。
相続時精算課税制度を利用するための手続きは?
この制度を利用する場合、贈与税がかからない場合でも必ず申告しなければなりません。
必要書類は、贈与税の申告書、相続時精算課税選択届出書、住民票の写し、登記事項証明書です。
これらの届出書や申告書が決められた期限までに提出されなかった場合、その年は相続時精算課税制度が適用されなくなってしまいますので、注意が必要です。
暦年課税と違い、贈与税が発生しない場合でも申告が必要ですので、忘れないようにしましょう。
すこしややこしいと思われる相続時精算課税制度ですが、理解するとメリットが大きいこともわかってもらえるのではないかと思います。
相続税対策としてだけではなく、自分の意思で遺産を渡すことができること、子供が歳をとってからの相続ではなく、一番お金が必要な時期に渡してあげられることが、節税以外の大きなメリットと言えるでしょう。
生前贈与した財産を、子供や孫の学資や家族旅行、また子供が夢を追っている場合にはその資金の足しにしたりなど、多種多様な目的に使ってもらうことができ、贈与された側はよりありがたみを感じるのではないでしょうか。
高齢になると、病気のこと、将来の生活のこと、様々な不安があるかと思いますが、その不安のために全額を預貯金で貯めておくのではなく、一定の額を思い切って生前贈与してみるのも一つの選択といえます。
そのお金が活きたお金となり、社会の役に立っていくことに喜びを感じられるのならば、決断する価値があるといえるでしょう。