金利と株の関係性から見る「低金利・マイナス金利で恩恵を受ける業界」とは?
テレビのニュースなどでも日経平均株価や為替などと共に「10年国債利回り」という数字をよく見かけます。
これは、いわゆる日本の長期金利の指標のことです。
「金利」というフレーズはあらゆる場面で耳にすることはあるかと思います。
しかし、金利の情報を自分に関係のあることだと敏感に取得している人は住宅購入を考えている人ぐらいではないでしょうか?
日々必要の情報として見聞きしている人は非常に少ないです。
一国の経済をコントロールするために、各国の中央銀行は金融政策というものを行っています。
その金融政策の内容というのが、「金利」をコントロールすることです。
金利をコントロールできれば、経済をある程度コントロールできると言われています。
景気が過熱気味になれば、金利を引き上げることで経済を落ち着かせます。
景気が停滞気味になれば、金利を引き下げ経済を活性化させます。
日本経済に起きた「バブル経済とバブルの崩壊」も金利の調節を間違わなければ起こりえなかったとも言えます。
それだけ経済に大きな影響を及ぼす「金利」ですから、株式市場に影響を与えないわけはありません。
金利のことを少し学びながら、最終的には金利情勢から投資先の業界を選ぶところまでを解説していきたいと思います。
目次
金利と株式市場の関係
金利とは「お金を貸し借りする際に発生する料金」です。
私たちが銀行に預金した場合も、わずかではありますが金利が付いてきます。
また、銀行からお金を借りる場合にも必ず金利がかかります。
一般的にこの「金利」と「株式市場」には関連性があると言われています。
株式投資を考える方は必ず押さえておかなければならないポイントです。
金利の上昇・下落によって、投資すべき対象は変わってきます。
ここではまず金利と株式市場の関係について見ていきましょう。
金利が上がった場合
金利が上昇すると、銀行などの預金金利が上昇します。
いま銀行の預金金利は0.001%程度です。
銀行に預金をしていてもほとんど増えないのが現状です。
しかし、仮に金利が上昇して5%となったとしましょう。
わざわざリスクをとって投資を行わなくても、銀行に預けているだけで、ほぼノーリスクで5%のリターンを得ることができるのです。
当然、投資していたお金を株式投資から引き上げて預金に回す人が多くなりますよね。
5%は極端ですが、これが0.1%なら、0.2%ならと順に考えていくと、金利が上がるにつれて投資から銀行預金に資金を移す人の割合は増えていくと思います。
つまり金利が上がれば上がるほど、株式市場に資金が回らなくなり、相場は閑散となります。
金利が下がった場合
逆に金利が下がると銀行などの預金金利も下がります。
預金金利が今よりももっと低くなり、預金してもほとんど資産が増えないような状況になった場合、資金を銀行に預けておいても意味がありません。
そうすると、少しリスクをとってでもお金を増やそうと投資をしようという動きがでてきます。
銀行などから預金を下ろして株や投資信託などに投資するため、株式市場に資金が流れ込み相場は賑わいます。
企業に与える影響
金利の上げ下げは、企業にも大きく影響を与えます。
ほとんどの企業は銀行からお金を借りています。
無借金経営をしている企業は非常に稀であると言えるでしょう。企業は借入金の返済の都度、金利を支払っている状況です。
そのため、金利が上がれば返済時に支払金利が増えます。逆に金利が下がれば支払金利は下がります。
さらに、金利が下落した場合には、企業は「余裕資金を金融機関に預けていても増えないので資金を遊ばせているのはもったいない」という考え方になります。
そうすると積極的に設備投資を行う企業が増えるので、結果的に企業業績に良い影響を及ぼすことがあります。
つまり、金利の上昇は企業にとってマイナス要因であり、金利の下落はプラス要因であると一般的には言えます。
ただし、後ほど説明しますが、金利が上がると有利になる業界もありますので、一概に金利の下落が企業にメリットであると言うこともできません。
マイナス金利政策とは?
2016年1月、日銀政策決定会合で「マイナス金利」の導入が決定されました。
ニュースなどでも取り上げられ、非常に話題となりましたが、そもそもマイナス金利って何?という方も多いと思います。
マイナス金利になると、私たちの生活にどのような影響があるのか、また株式市場にはどのように影響するのかについて、説明していきたいと思います。
預金して利子がもらえるのは当たり前なの?
通常、私たちが銀行に預金をすると利子がつきます。
そもそも、なぜ預金をすると利子がつくのでしょうか?
普段あまり意識をしていないと思いますが、「銀行にお金を預ける」=「銀行にお金を貸している」とと同じなのです。
お金を貸してあげているのだから、その期間に応じて利子をつけて返してもらうのは当たり前ですよね。
しかし、この感覚が日本国民には薄いので銀行預金が史上稀にみる低さでも「仕方ない」と諦めてしまうのです。
よく考えると、こちらがお金を貸した際にはゼロに近いような金利しか支払ってくれないのに、銀行からお金を借りるとその何百倍、何千倍もの利息を支払わされているというのが日本の現実なのです。
マイナス金利とは?
マイナス金利とは、その名の通り「金利がマイナスになること」を指します。
つまり、預金している分の利子を逆に銀行へ支払わなければならない状態のことです。
先ほどの利子がもらえる理由を考えると、マイナス金利なんてあり得ないですよね。
しかし、預金をしているのになぜお金を払わなければいけないの?」「損をするのであれば銀行にお金を預けるのをやめよう!」と慌てる必要はありません。
今回の「マイナス金利」は、日本の中央銀行である「日本銀行」と各金融機関における金利の話であって、個人の銀行預金に適用される金利とはまた別の話です。
個人が銀行に預金をしているのと同じように、各金融機関も日本銀行にお金を預けています。
今まではその預けていたお金に対して利子をもらっていました。
しかし、マイナス金利が導入されましたので、これから預ける分についてはマイナス金利(-0.1%)が適用されます。
-0.1%ということは、1000億円預ければ、1億円の金利を支払わなければなりません。
ずっとお金を預けているとどんどんお金が減っていってしまうということです。
マイナス金利政策の狙いとは?
ではなぜ日銀はマイナス金利政策を導入したのでしょうか?
そこには2つの狙いがあったのです。
資金を流通させたい
先ほど説明したように、金融機関は日本銀行に資金を預けているとどんどん目減りしていきます。
そうすると、金融機関は日本銀行に資金を預けておくわけにはいきませんので、新たな資金の運用先を見つけなければなりません。
その資金を企業に貸し出したり、投資に回したりして収入を得ようとします。
つまり、市場にお金を流通させることで景気を良くしようということです。
もともと、日本銀行は日本の景気を良くするためにあらゆる金融緩和を行ってきました。
- ゼロ金利政策(銀行間の資金の貸し借りでつく金利を実質ゼロにすることで、銀行に株式投資や長期投資を促す)
- 量的緩和(日本銀行が金融機関から国債を買い取り、銀行が使える資金を増やして市場に資金を回す)
- 質的緩和(日本銀行が金融機関から買い取る資産の対象をETFやJ-REITまで広げる)
などです。
今回の「マイナス金利政策」は、「ゼロ金利政策」からさらに一歩踏み込んだ大胆な政策であると言えます。
円安・株高に誘導したい
マイナス金利は、日本銀行と各金融機関の間での金利の話であると言いましたが、個人と銀行間の間でも全く関係がないわけではありません。
金融機関は日本銀行に預けていても金利が付かない(儲からない)わけですから、預金者(個人)へ支払う金利も下げざるを得ません。
そのため、個人や銀行が円を預金している場合の受取金利も、マイナスにはなりませんが下がることになります。
銀行預金は、もちろんのこと日本国債の金利も下落しますので、日本円そのものの金利的な魅力が薄れてしまいます。
そうすると、海外投資家は日本円を売って他国の通貨を買おうとしますので、円安になります。
日本株は輸出で稼いでいる企業が多いというイメージから、円安になれば株価が上がることが多いです。
そのため、「マイナス金利政策」により、為替を円安に誘導することで輸出企業の業績改善を図り、株高を演出しようという意図があったと言えます。
我々の生活にはどのような影響があるのか?(住宅ローン・銀行預金)
マイナス金利は株式市場にも影響を与えています。
それはつまり、マイナス金利が私たちの生活に影響を及ぼしているからこそ、株式市場に影響が表れるのです。
株式市場への影響を考える前に、私たちの生活にどのような影響があるのかを考えていきます。
住宅ローン金利の低下
「マイナス金利になれば住宅ローンの金利が下がる」と言われていますが、なぜでしょうか?
10年の新発国債の流通利回りは、過去最低の年0.05%となりました。
ここで注目したいのが、「住宅ローンの金利はこの10年国債を元に決められている」ということです。
10年国債の金利が過去最低になっているわけですから、住宅ローンの金利にも当然下落の圧力がかかります。
銀行は、日本銀行に預けているだけでは資金が目減りしていくのだから、少し金利を下げてでもお金を借りてもらおうとなるのです。
そのため住宅ローンの金利が下がるのです。
国としては結果として、住宅ローン市場を国民が住宅を買うのに絶好の低金利状態にすることで、住宅購入の後押しをする狙いもあるのです。
銀行預金のさらなる低下
マイナス金利政策の導入に伴って、一番困っているのは銀行です。
銀行は、リーマンショックによる金融危機を脱して以降、資金を貸し出すことに臆病になりました。
資金を貸したが返ってこなくなる、いわゆる不良債権をいかに作らないようにするかを考えて経営を行わざるを得なくなったのです。
そのため、新しい融資先・投資先を探すことは非常に困難となりました。
そこで銀行は、ゼロ金利政策により預金者には低い金利で利子を支払い、預金者から集めた預金を日本銀行に預けて金利をもらっていました。
つまり、リスクをできる限り少なくしてリターンを得る手段を持っていたのです。
ところが、マイナス金利の導入により、日本銀行に資金を預けていても逆に金利を支払わされるわけですから、ローリスクの経営手段を失ってしまったのです。
そこで、銀行が下す決断は「預金金利の引き下げ」ということになります。
メガバンク3行はマイナス金利を受けて、預金金利を引き下げました。
金融機関名 |
マイナス金利導入前金利 |
現時点の金利 |
三菱東京UFJ銀行 普通預金 |
年0.020% |
年0.001% |
三井住友銀行 普通預金 |
年0.020% |
年0.001% |
みずほ銀行 普通預金 |
年0.020% |
年0.001% |
ただでさえゼロに近かった金利が、さらにゼロに近くなってしまいました。
このような金利水準では、預金をしている意味はほとんどありませんよね。
やはり株式などの金融商品に投資をしている方が賢いのではないでしょうか。
金利情勢によって投資する業界を選択する方法
さて、ここまで金利情勢について話をしてきましたが、金利の上げ下げは個別株式にどういう影響を及ぼすのでしょうか。
マイナス金利政策により、メリットを享受できる業界とデメリットになる業界を見ていきたいと思います。
マイナス金利(金利低下)で恩恵を受ける業界
金利が低下すると、多くの企業にとってメリットがあります。借入金の利息が減るからです。
ここでは特に金利低下により恩恵を受ける業界を紹介したいと思います。
金利低下の恩恵を受ける銘柄を、
- 「金利低下メリット株」
- 「低金利メリット株」
- 「金利敏感セクター」
- 「金利敏感株」
などと呼ぶことも多いです。
不動産業界
不動産業界が恩恵を受ける理由は大きく二つあります。
不動産業界は土地を取得等にかかる投資資金が大きい上に、資金回収までの期間が長いことから、長期負債が膨らみやすい傾向にあります。
金利が低下すると、より低利の融資に切り替えて、支払利息を抑えることができることが恩恵を受ける一つ目の理由です。
もう一つは、民間住宅においても住宅ローン金利の低下により、住宅の購入を考える人が増えることから新規受注が増えることです。
証券業界
銀行の預金金利が低下すると、預金の魅力が薄れてしまいます。
不景気の間は、預金金利が低くても投資のリスクを避けようという心理が働きますが、景気が良くなってくると人間は欲が出てきます。
低い預金金利に見切りをつけて、少しでも資金を増やそうと「貯蓄」から「投資」へと資金をシフトさせる人が多くなります。
そうするとリスク商品を扱う証券業界へとお金が流れていくわけです。
その他金融(リース業)
また、その他金融といわれる業界にも恩恵を受ける企業が多いです。
その中でリース業界も恩恵を受ける業界の一つです。
リース業というのは、リースする資産にもよりますが、基本的にはリース資産(固定資産)を借入金等を元手に取得し、それをリースする(貸し出す)ことで収益を得ています。
つまり、多額の借入金をベースに経営を行うビジネスモデルなのです。
そのため、マイナス金利の導入はコストの低減に大きく寄与することになります。
その他金融(消費者金融業界)
消費者金融業界も恩恵を受ける業界です。
消費者金融のビジネスモデルを考えると、どのようなメリットがあるのか理解できると思います。
消費者金融は、信用力が低い個人に向けて高金利の無担保ローンを貸し出すことをビジネスとしています。
年率4.7~18.0%程度とかなり高水準な金利設定となっています。
マイナス金利の導入によってこの金利水準が下がるかというと下がりません。
この高い金利水準は資金の貸出先の信用力によって決定されているからです。
そのため、長期金利が低下しても、貸出金利は下がりません。
逆に、消費者金融は貸出の原資となる資金を主に銀行から借り入れています。
そのため、銀行からの資金調達の借入金利は、マイナス金利の導入で低下するのです。
マイナス金利の導入で、貸出金利は下がらず、借入金利が下がり、利ざやが拡大する期待があることから、消費者金融は恩恵を受ける業界なのです。
マイナス金利(金利低下)がデメリットになる業界
銀行業界
銀行業界は、マイナス金利政策の影響を一番分かりやすく受ける業界であると言えます。
銀行の収益源の一つとして、利ざやで儲けていることが挙げられます。
利ざやとは、借りたお金の金利よりも高い金利で貸し出した場合に得られる利益のことです。
マイナス金利の導入により、借入金と貸付金の金利差は極めて小さくなっており、利益に与える影響は大きいといえるでしょう。
メガバンクと言われる銀行(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)は近年業務を多様化しており、利ざやだけで利益を上げているわけではありません。
そのため、マイナス金利政策導入に対する抵抗力は強いと考えられます。
ただ、地方の中小金融機関は有望な貸出先を見つけることができずに、預金を国債の購入に充てているところも多くあります。
そのような金融機関は、マイナス金利導入のデメリットをダイレクトに受ける形になります。
今後の利益動向に注意を払う必要があるでしょう。
生命保険業界
生命保険業界もマイナス金利政策の影響を受ける業界の一つです。
生命保険という商品は基本的に長期に及ぶ契約が非常に多いです。
20年や30年の長期にわたる保険契約を引き受けて保険金の支払を受けることは、20、30年間の長期固定金利で資金を調達したことと同じことなのです。
その保険金を債券で運用することによって収益を生み出さなければならないわけですが、金利が低下していくと想定した収益が得られなくなってしまいます。
それどころか、金利が高い時期に引き受けた保険契約では、運用益との逆ザヤ(保険契約者に約束した運用利回りを、保険料などの調達利回りが上回ること)が発生する可能性も高まってしまいます。
まとめ
金利は、私たちに身近なものに影響するものでありながら意外と実感が無いものです。
実際は、日本の金利が海外の金利と比べてどうなのか、海外主要国の利上げ・利下げの動向なども、日本の株式市場には大きな影響を与えます。
とりあえず、日本の現在の金利がどうなっているのか、そして金利の上昇・下落がどのような業界に影響を及ぼすのかを知っておくことは、大きな経済の流れを読む上でとても重要であると思います。
最後の章で説明したような、「現在行われてる政策や現在の経済状況を業界や個別銘柄に落とし込む作業」が株式投資には欠かせません。
何か大きなニュースがあるたびに、そのニュースが株式市場にどのような影響を及ぼしそうなのかを常に考えることが大切です。