相続の手続きや遺産分割協議はいつ行う?意外と知らない手順を解説!
身近な人が亡くなると、親類や故人の友人、職場関係の人や趣味の仲間などに訃報を知らせたり、葬儀の準備を行ったりと、ゆっくり悲しんでいる間がないほどの忙しさで数日が過ぎていきます。
気を強く持って、しっかりと故人を送ってあげないといけないという義務感から、葬儀が終わるまでは気丈にふるまっている人が多いでしょう。
しかし、故人の葬儀が終わっても、まだまだすべきことは残っています。
残された財産をどう分割するのかを相談し、その結果等を税務署に申告し、相続税をおさめなければならないのです。
しかし、いったいいつ頃遺産分割の話し合いをするのか、そのあとの手続きはいつごろ、何をすればよいのか、ということについて、詳しく知らない人が多いようです。
友人で身内を亡くした人がいても、相続の手順などは聞きにくいものです。
身内が亡くなるまで相続手続きの手順や内容について、知識が一切なかったという場合も少なくありません。
相続は、人生のうちに数回あるかないかで、身近なものとは言いにくいかもしれませんが、誰でもいつかは経験するものです。
知識をもっておいた方が、いざというときも慌てずに済みます。それでは詳しく見て行きましょう。
目次
相続開始はいつ?
相続は、被相続人が死亡した瞬間に始まります。
一般的には死亡の原因が病気であったり、事故であったりすることが多いですが、それ以外の原因で「死亡」と見なされ、相続が開始される場合もあります。
病死などの「自然死亡」の場合は、死亡診断書や死体検案書を添付した死亡届により、戸籍簿に死亡した日が記載されます。
もし、死体が発見されない場合などは「認定死亡」といい、官公署の死亡報告に基づいて戸籍への記載がなされます。
失踪宣告により、死亡したとみなされる場合もあります。失踪宣告には二つの場合があります。
普通失踪
普通失踪不在者の生死が7年以上不明であるときに、家庭裁判所が利害関係人の請求により宣告します。
失踪期間の満了時である7年経過時に死亡したものとみなされます。
特別失踪
死亡の原因となるような災害、例えば戦争、地震、火災、船の沈没などに遭遇した人が、その災害が去ってから1年間にわたり生死不明であるときに、家庭裁判所は利害関係人の請求によって失踪の宣告をすることができ、失踪者は死亡したものと見なされます。
相続の手順とは?葬儀の準備から相続税の納付まで
被相続人が死亡してからの流れをみてみましょう。
1.被相続人の死亡
この時点より相続が始まります。関係者へ死去の連絡をしたり、葬儀の準備などを行います。
2.通夜・葬儀を行う
死亡より7日間以内に、市町村役場へ死亡届を提出します。死亡診断書を添付することが必要です。
葬儀を行った後は、葬式費用の領収書等を整理して、保管しておきます。(相続財産から控除できるため)。
3.初七日の法要
形見分けを行ったり、遺言書の有無を確認します。遺言書があれば、家庭裁判所で検認してもらうことが必要です。
4.香典返しを行う
香典返しの費用は相続財産から差し引くことができないので注意しましょう。
5.四十九日の法要を行う
この頃までに、プラスの財産と、マイナスの財産(債務)の把握を行います。
そして、「相続を放棄するのかどうか」を決めます。
その後、相続人の確認を行い、被相続人と相続人の戸籍謄本を取り寄せておきます。
6.相続の放棄と限定承認を行う
相続放棄する場合や、限定承認をする場合は、相続開始から3ヶ月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申告することが必要です。
7.準確定申告を行う
被相続人の所得を税務署に申告します。これは、死亡日から4ヶ月以内に行うこととなっています。
この頃に相続財産の評価(不動産などの相続税評価額や、それにかかる相続税など)を行います。
不動産の評価など、個人では難しい場合も多いので、専門家に依頼すると良いでしょう。
8.遺産分割協議書の作成を行う
相続人全員が集まることが必要で、一人でも欠けていた場合は、その遺産分割協議は有効となりません。
作成には、相続人全員が実印で押印することと印鑑証明書が必要となります。
相続人の数を作成し、各自保管できるようにしておくと良いでしょう。
遺産の名義変更の手続き、不動産の相続時、預貯金の名義変更、相続税の申告書の作成を行います。
また、相続税を納めるための資金を準備したり、どうしても納付できないときは物納の検討に入ります。
9.相続税の申告と納付を行う
被相続人の死亡時の住所地の税務署に相続税を申告し、納付します。
以上が、相続の一般的な流れとなります。
注意点としては、遺言書があれば家庭裁判所で検認してもらうこと、被相続人の所得を税務署に申告すること、遺産分割協議は皆が揃った状態で行うことがあります。
葬儀費用は、どの項目まで控除してもらえる?
葬儀費用は、相続財産から差し引いても良いこととなっていますが、差し引けるもの、差し引けないものが細かく定められています。
葬儀費用として控除できるものは以下です。
- 埋葬、火葬、納骨、遺骸・遺骨の回送費用
- 施与した金品
- 葬式の前後に支出したもののうち通常葬式に伴う出費
- 死体の捜索・運搬費用
- 戒名料、読経料、葬儀社への支払、会葬御礼の費用
香典返しの費用や、墓碑・墓地・仏壇の購入費、墓地の借入料は控除できませんので注意が必要です。
初七日や四十九日などの法事に関する費用も、基本的には控除されません。
しかし、最近では親戚が一同に会するのが難しい等の理由から、初七日や四十九日を葬儀と同時に行う場合もあります。
その場合は、葬儀費用と法要費用を分けるのが難しいため、葬儀費用に含めてもよいこととなっています。
仏壇や位牌、墓石や墓地使用権といったものは「祭祀用財産」と呼ばれており、相続財産には含まれません。
よって、遺産分割の対象にもならないとされています。
墓地や墓石は、被相続人が死亡した後に購入しても、その費用は控除されることはありません。
しかし、生前に墓石や墓地を購入していた時は、相続財産とみなされないため、相続税がかからないこととなります。
つまり、墓地や墓石を生前に購入しておけば、相続財産を減らすことができ、相続税対策になるということなのです。
相続税対策の一つとして、「墓地や墓石の生前購入」も考えておきましょう。
遺言書における、家庭裁判所の検認とは?
遺言書を見つけた場合、公正証書遺言以外の「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」に関しては、裁判所による遺言書の検認を受けない限り、勝手に開封してはいけないことになっています。
この「検認」を受けた遺言書でないと、不動産の登記手続きができなかったり、金融機関でも手続きを受け付けてくれないことがあるので注意が必要です。
相続放棄や単純承認、限定承認の意味とは?
相続する場合、預金や不動産などの「プラスの財産」を引き継ぐ場合、負債などの「マイナスの財産」もセットで相続しなければならないとされています。
負債は相続せず、プラスの財産だけ相続したいと思っても、できないようになっているのです。
プラスとマイナスの財産を考えて、マイナスの財産の方が多かった場合、相続しても逆に損をしてしまうことになります。
プラスとマイナスの財産すべてを放棄して、財産をもらわない代わりに、借金も支払いませんというのが「相続放棄」です。
この手続きを被相続人が死亡してから3ヶ月以内に行うことで、親の借金を肩代わりせずにすむことになります。
限定承認
限定承認とは、相続をうけた人が、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を受け継ぐという方法です。
この方法は、受け継ぐ財産よりも借金の方が明らかに多い場合や、把握していない借金が残っているかもしれない場合に有効です。
相続時、プラスとマイナスの財産のどちらが多いのかがよくわからない場合があります。
後々、多額の借金が見つかり、その支払い義務を負わされてしまうというパターンもあるのです。
しかし、限定承認をしている場合は、後からみつかった借金の支払いをする必要がありません。相続したプラスの財産よりも多いマイナスの財産(負債)は支払わなくてもよいのです。
もし、プラスの財産の方が多かったと後でわかっても、財産はそのまま引き継ぐことができ、返す必要はありません。
このように、借金の返済は限定され、かつプラスの財産が多いと後でわかっても返さなくてもよい、という条件なので、限定承認は相続人にとって有利であり、便利な制度といえるでしょう。
こちらも、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申告する必要があります。
申し出がないと認めてもらえないので注意しましょう。
また、個人で決めることができる「相続放棄」と違い、限定承認の場合は、相続人の全員が共同で申請しなくてはいけません。
相続人のうち一人でも、限定承認に反対があると、他の相続人も限定承認ができなくなりますので注意が必要です。
相続人のうちの誰かが相続放棄をしていた場合ですが、その人以外が同意すれば、限定承認の申告をすることができます。
単純承認
単純承認というのは、プラスの財産もマイナスの財産も、全財産を無条件に引き継ぐことです。
相続放棄や限定承認の手続きを3ヶ月以内に行わない場合、自動的に「単純承認した」と見なされてしまうので注意が必要です。
相続財産に債務がない場合は問題がないですが、被相続人が借金を抱えていた場合など、その支払い義務を自動的に受け継ぐことになってしまいますので、相続放棄や限定承認の手続きを必ず行いましょう。
遺留分の減殺請求は、相続開始より1年以内に
民法では、法定相続人が必ず相続することができるとされている最低限の相続分、つまり「遺留分」が保証されています。
もしも、遺言によって財産の多くが他の人に相続されてしまい、民法で保証されている遺留分未満の財産しかもらえなかったときには、それ(侵害)を知った日から1年以内に、遺留分を侵した相手に対して「遺留分の減殺(げんさい)請求」を行うことで、これを取り戻すことができます。
遺留分の割合は、通常の場合は、遺留分は被相続人の財産の2分の1です。
相続人が直系尊属(父母や祖父母)のみの場合は、遺留分は被相続人の財産の3分の1となっています。
兄弟姉妹には遺留分が設定されていませんので、注意しましょう。
相続税の特例適用のための分割期限は死亡より3年10ヶ月以内に
相続税で設けられている特例で、節税効果が大きなものに「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地の特例」があります。
これらを適用するためには、「遺産分割協議が終わり、その分割について相続人皆の同意があること」が条件となっています。
相続人同士がもめたり、意見があわなかったりして、申告期限までに遺産分割協議が整っていない場合があり、その場合はこれらの特例を適用できません。
しかし、相続税の申告期限の10ヶ月以内に間に合わない場合でも、それより3年以内に分割協議が整えば、その特例を適用できるように、相続税の申告内容を訂正することができます。
相続では、相続財産がどれくらいあるのかというプラスとマイナスの財産の把握や、相続放棄や限定承認を行うかどうか、遺産分割協議書の作成、申告や納付など、やることがたくさんあります。
しかも、3ヶ月以内と期限が決まっているものもあるので、気づいたら期限が過ぎていたということもありえます。
残された財産に負債がなければ問題ありませんが、相続財産に負債が含まれているとわかっている場合には、早め早めに行動をし、相続放棄や限定承認などの手続きをすませることが大切です。
手続きの時期が遅れてしまうと、大きな借金を背負うことにもなりかねません。
大切な人が死亡した後は、そのように財産のことをあれこれ考えるのもわずらわしく、辛い場合もあるかと思いますが、やらなければならないことをしっかりと把握して、きちんと手続きや納付を行うようにしましょう。