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総務省の要請で変革!スマホの購入補助はどこまで許されるのか?

 

今や、生活の必需品となった「スマートフォン」ですが、これを利用するためには端末だけではなく「通信事業者との契約(SIMカードの入手)」が必要です。

日本には「大手キャリア」と呼ばれる、ガラケーの時代から通信事業者として多くのユーザーを抱える3つのキャリアが存在します。

それは「docomo」「au」「SoftBank」です。

実は、この大手キャリアと「総務省」が、スマートフォンの価格等に関する激しい駆け引きを繰り広げているのです。

総務省は2016年3月25日に、スマートフォンの販売を適正化する「ガイドライン」を策定し、これを受けて大手キャリアの3社がキャンペーンを見直す事態となりました。

ですが、その基準は実に曖昧なものなのです。

なぜ、総務省はそのような戦いを大手キャリアと繰り広げることになったのか、それは現在どのような経過を辿ったのか、大手キャリアと総務省の戦いの結果を辿り、現在の姿をとらえてみましょう。

目次

総務省の「ガイドライン」

全てのきっかけとなったのは、安倍晋三首相が発足させた「タスクフォース」です。

そこではさまざまな議論がかわされ、出た結論をまとめて「ガイドライン」として策定されました。

このガイドラインを受けて、大手キャリア3社は、

「スマートフォンの購入代金が『実質的に0円になる』というキャンペーン」

などを大きく見直すことになります。

ガイドラインは2016年の4月1日から開始され、大手キャリア各社が次々にキャンペーンを中止させました。

2016年3月までに次々と終わったキャンペーン

さて、総務省策定のガイドラインを受けて、大手キャリアでは既存のキャンペーンを注意する動きが次々に起こりました。

では、その動きを細かく見ていくことにしましょう。

docomoが終了させたキャンペーンや端末価格

まず、真っ先に動きを見せたのは「docomo」でした。docomoは他のキャリアに先駆けて「のりかえボーナス」を終了させました。

これは「MNP」でdocomoに乗り換えたユーザーが端末を購入する際に、その購入代金を割り引くというものでした。

端末の購入代金が高額になりやすい「iPhone」に関しては、最大で3万円を超える高額な割引が実施されていました。

それが16年2月1日の出来事で、さらに3月30日で「ボーナスパケットキャンペーン」を終了させています。

このキャンペーンは端末の購入代金とは直接関係ないようにも見えるのですが、ガイドラインにおいてはそうではなく「パケット増量も端末の購入補助に該当する」と判断されたのです。

ちなみに、なぜ「30日」なのかと言えば、翌日3月31日が「iPhoneSE」の発売日、ガイドライン開始の4月1日までの「1日間だけ」の割引など適用すれば、販売システムが複雑になるだろうと判断した結果であると考えられます。

その他にもdocomoは、ガイドラインを受けて端末の購入代金について細かい調整を行いました。

結果、端末の購入代金が実質0円を下回らないようにしています。

早めにキャンペーンを終了させたdocomoが、auやSoftBankをけん制

さて、先ほども「docomoが先駆けとなって」という話をしましたが、docomoは他の2キャリアよりも早い段階で「乗り換えボーナス」を終了させました。

ですが、他の2キャリアでは引き続いて同様のキャンペーンが適用されていたのです。

これは、当初公表されていたガイドラインの案に関して、「端末購入に直接関わらない割引」が規制の対象外となっていたことが理由です。

ですが、パブリック・コメントを受けて、16年3月25日のガイドラインを修正したことにより、規制は、より厳しい基準となりました。

この「パブリック・コメント」が、実はdocomoから出ているので、これは「ドコモが他の2キャリアをけん制した」と言えるのです。

KDDIとソフトバンクも16年3月でMNPを条件にした割引キャンペーンを終了

docomoからのパブリック・コメントには「MNP」に関する言及があり、これを受けて総務省は、

「MNPを条件とする割引等については、端末購入補助と見なすようにガイドラインを修正する」

と回答しています。

これにより、MNPを条件にした割引キャンペーンは、16年3月31には各社から姿を消すことになりました。

ちなみにauでは、MNPを条件とした「のりかえ割」の終了時期を16年5月31日としていたので、2ヶ月も前倒しすることになりました。

「ガイドライン」運用後には「機種変更」まで規制が拡大

さて、このガイドラインは、大手キャリア3社にさまざまな変化をもたらしましたが、ガイドラインの影響はそれだけにとどまりませんでした。

SoftBankの「のりかえ割パワーアップ」が、総務省の逆鱗に触れる

ガイドラインが開始されてから数日後の4月5日、総務省はdocomoとSoftBankに対して「要請」を出すこととなります。

しかも、そのうちSoftBankの方には「改善報告」を求めています。

ここまで大々的な行動がとられた背景には「SoftBankの行動」がありました。

SoftBankでは、ガイドラインが運用された4月1日、いきなり「のりかえ割パワーアップキャンペーン」を導入しています。

先ほども「MNP」に関して大きな動きがあったことを説明していますが、昨日の今日でいきなりこれです。総務省が怒らないわけがないのです。

この新しいキャンペーンは、1人でのMNPに約2万円、家族を紹介することで約3万円の大幅な割引が適用される可能性がありました。

この割引は最大で24ヶ月間、通信量に対して適用されるという内容です。

このキャンペーンは、購入する端末の購入代金によっては、端末購入代金が実質的に「マイナス」になる可能性もありました。

確かに以前までなら、適用される割引金額よりも購入代金が低い端末はいくらでもありました。

しかし、このガイドライン施行後に、端末代金が実質0円どころかマイナスになるキャンペーンを展開したことが、総務省の怒りを買う結果となってしまったのです。

ソフトバンクがここまで大胆不敵なキャンペーンを展開した理由

さて、このような「大胆不敵」と言える、挑戦的なキャンペーンを展開したのには、実は「ある理由」がありました。

当時のSoftBankの立ち位置は「業界3位」であり、特に以前として業界1位のdocomoから、これまで通り多くの顧客を奪い取る必要がありました。

そのためには、

「docomoの機種変更価格」と、

「SoftBankへの乗り換え(MNP手数料、新規契約手数料)」

を比べた時に、より充実したサービス(値段的に)を展開しなければ、docomoに打ち勝つことはできません。

したがって、競争上必要ということで、ガイドラインを守りながら、端末購入補助の価格を設定した、というのが理由です。

ガイドラインには、その注釈として、

「他事業者において機種変更する場合の補助と比較し、事業者の乗り換えに伴い発生する『スイッチングコスト(解除料、転出手数料及び新規契約事務手数料)』相当額の補助の上乗せを行うことは、あり得ると考えられる」

というように記載されています。

SoftBankはこれを「文字通りに解釈」し、上記のキャンペーンを始めたということなのです。

実際ドコモも、既存ユーザー優遇にもつながる機種変更の価格を下げる

また、実際にdocomoでも16年2月から「新規やMNPでユーザーを獲得する」ということよりも、

「既存のユーザーに対する優遇にもつながる、機種変更の価格を下げる」

という風に、方向性を変えています。

docomoでは「月々サポート」の金額を見直すことで、端末の購入代金を見直しています。

他にも「特定の端末に機種変更した場合」に、月々サポートを増額するという施策も行っています。

前述の通り、docomoは当時の業界1位のキャリアであり、つまり新規ユーザーの獲得に躍起になる必要はそこまでありませんでした。

むしろ、1位の地位を維持するためには「既存のユーザーをつなぎとめておく」ことのほうが重要だったのです。

そのため、自社から他者にユーザーが流出するのを促す結果となる「MNP」のキャッシュバックに対して、総務省が「くぎ」を刺してきたことは、docomoにとってはまさに利害が一致したわけです。

ガイドラインでは、既存のユーザーに対する優遇については、そこまで深く追求されていませんでした。

というより、タスクフォースでは、

「既存のユーザーを重視する施策を求める」

という空気が少しありました。

docomoに対しても「機種変更価格」が過度に安くなり過ぎないよう要請

ですが、それを単純に推し進めてしまうということは、最終的にキャリア間の競争が端末価格の面ではなくなってしまうという側面がありました。

そのため、これをSoftBankが警戒し、総務省の要請に対しては従っておく姿勢を見せつつ、プレスリリースでは、くぎを刺すために再度、同社の主張を展開しています。

そもそも、「MNP」という制度自体、これは総務省が導入した制度でもあります。

総務省はその立場故に、SoftBankの主張にも一理あると判断せざるを得なかったのです。

結果、SoftBankだけではなくdocomoに対しても、機種変更価格が極端に安くならないようにという要請が行われています。

競争の促進や値下げは、きちんと制度設計して解決すべき

さて、ガイドラインの内容によって、総務省と大手キャリアがさまざまな攻防を繰り広げていることがわかります。

ですが、全体を見渡してみると、根本的かつ致命的な問題があることがわかります。

曖昧なガイドラインが、結果的に大きな混乱を招いているのではないか?

これまでの経緯は、確かに大手キャリアにとって死活問題であり、それを総務省がなんとかコントロールしようとしている様子がわかります。

ですが、そもそもの問題として「ガイドラインの内容が曖昧ではないか?」ということと、それが「販売の現場に混乱を招いているのではないか?」ということが見えてきます。

例えば「金額」です。

総務省は、0円以下になるような端末代金になることは避けたかったのですが、厳密に「何円以下だと駄目」という明確な基準は、ガイドラインに盛り込まれておらず、実際には裁量の範囲で片付けられています。

とは言え大手キャリアは「民間企業」であり、価格というものは企業の競争と将来を左右するものなので、明確に金額の基準を打ち出すことは民間企業としての体裁を保てなくなってしまいます。

ですが、これは大手キャリア側も困るのです。

明確に金額が規定されていない以上、価格を決める大手キャリアとしては「何円までなら大丈夫なのだろうか?」ということを知ること無いまま、暗中模索する結果になってしまうのです。

このスタンスが、大手キャリアと総務省が各々に自分の動きを制限してしまい、非常に窮屈な空気を作り出してしまいます。

ガイドラインが生み出した、大手キャリアの「理想」と「現実」

もう一つ考えなければならないことは「割引を是正すること」で、誰が得をするのかということです。

これまでの情報では「端末の購入代金が0円以下にならないように」ということで、実質的に「端末の購入代金を向上させる」結果を生み出しています。

これだけだと得をするのが誰かは見えにくいのですが、少なくとも「端末を購入するユーザーの金銭的な負担が増加する」ということには変わりません。

そもそも、ガイドラインが策定されるまでに至った最初の考えは「携帯電話の料金の負担を減らす」ということです。

紆余曲折を経て「不公平の是正」がメインとなりましたが、最終的な目的は「いかにしてユーザーの金銭的な負担を減らすことができるのか?」ということには変わりません。

ですが先ほども説明した通り、ガイドラインの内容に即すことで、端末購入時の割引の幅が小さくなり、結果的に消費者の端末購入代金による金銭的な負担が増加しています。

つまり、ガイドラインの目的が、結果として真逆の結果を生み出しているのです。

ならば、どういった姿が本来のガイドラインの目的を達成する事になるのかと言えば、端末の購入に際して実施される割引の金額が減った分だけ、月々の通信料を安くするということを想定していたのです。

そうすれば、端末購入に際して「割引を受けられるユーザー」と「割引を受けられないユーザー」の格差が是正され、その分だけ「通信料」というすべてのユーザーが公平に利用できる金額が安くなるという結果につながるのです。

ですが、前述の通り大手キャリアは民間企業、さすがに国としても価格面まで厳格に介入することはできません。

上記の流れを期待しながらも、最終的な料金の決定権は大手キャリアに委ねるしか無いので、どうしても理想と現実に大きな乖離が発生してしまうのです。

大手キャリアが理想の形に近づくためには、場合によってはさらなるタスクフォースや細かなガイドラインが必要になる可能性があります。

端末価格の規制ではなく、より料金競争が起きやすい制度や枠組みを

総務省の本来の役割は「競争を通じて価格を下げることを推進する」ということです。

それに基づき「MNPの導入」「MVNOの推進」「新規事業者への周波数割り当て」といった、競争を促すためのさまざまなアクションを実施しています。

それらは決して間違ったものではなく、実際に価格競争を促すことで消費者の利益を実現しています。

ならば、ガイドラインが理想と現実に大きな乖離を生み出した原因はどこにあるのか、それは「着眼点が違っていた」と言うしかありません。

本来の目的のためであれば、総務省が実施するべきだったことは「端末価格の規制」ではなく、「料金競争を促す制度・枠組み作り」ではないでしょうか?

端末価格の規制を最終的に料金体系へのアプローチにするのではなく、もっとダイレクトに料金体系へアプローチできるような仕組みやルールを作るべきだったのです。

価格決定は企業の自由であり、基本的に企業間競争が健全な状態であれば、企業は料金を安くしていく傾向にあります。

誰だって、安くて便利なものを利用したいと考えるはずです。

16年10月7日の行政指導、大手キャリアは「抜け道」の模索に執心

あまりにも「大手キャリアの思惑」と「プロセスの構築」を甘く見積もってしまったということが、4月からのガイドラインに如実に現れているのかということがわかります。

その挙句、2016年10月7日、ガイドライン運用から半年で大手キャリア3社全てに対して「行政指導」を行うという結果になっています。

理由は「ガイドラインの趣旨に反している」ということです。

有り体に言えば、大手キャリアは3社とも「抜け道」を探すのに躍起になってしまったのです。

今回の行政指導に関しても「真摯に対応する」としながらも、そもそもガイドラインに反すると思われた内容に関しては「反するとは思っていなかった」「単なる偶然だ」で済ませようとしています。

通信事業者を取り巻く環境が変化することは十分に考慮すべきでしょうが、「大手」と呼ばれる彼らがそれを想定できないとも考えにくいのです。

鳴り物入りのガイドラインも、もはや「絵に描いた餅」状態です。

とは言え、これを即座に取り下げたり、早急に内容を刷新して運用するということも難しいのです。

タスクフォースの立ち上げからガイドラインの運用までそれなりの時間が経過していることを考えても、現行のガイドラインを改定することも、新しいタスクフォースの発足からやり直すのも、相当な時間を必要とします。

ですが、いつかは実現しなければならないことでもあり、「蒔かぬ種は生えぬ」のです。

1日でも早い行動を期待しますが、ユーザーとしては「急に何らかのデメリットを受けることになる」のは勘弁願いたいことではあります。