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格安SIMの電波って弱いの?MVNOの設備増強は何をやっているの?

 

目次

格安SIMの電波は弱いのか?

スマートフォンを安い料金で利用したいと思う場合、ユーザーがとることができる選択肢の一つとして「格安SIM」という方法があります。

文字通り、料金が格安のSIMカードであり、長く使い続けることを考えるとやはり毎月の料金を安く抑えることができる格安SIMは正しい選択肢であると言えます。

しかし、日本には「安かろう悪かろう」という風潮・考え方があります。

格安SIMは料金が安いけれど、その代わりに大手キャリアに比べてどこか悪い部分が有るのではないかと邪推する人は少なくありません。

その認識の一つとして「電波が弱いのではないか?だから安いのではないか?」ということが挙げられます。

加えて、単純なイメージとしてだけではなく、実体験、つまり「実際に格安SIMに乗り換えてから電波が弱くなった」と感じているユーザーもいます。

では、本当に格安SIMは大手キャリアに比べて電波が弱いのか、格安SIMやその周囲を取り巻く環境について解説しながら、その真偽について解説していきます。

MNO(docomo/au)が設置している基地局を借りるということ

まず最初に、そもそもの問題として「MVNOはどのようにして格安SIMを提供しているのか?」というところから解説していきます。

要するに、MVNOが保有する電波に関する設備や仕組みなどの話です。もし、電波が弱いことの原因がそこにある場合、大手キャリアよりもレベルの低い設備を使っているから、ということがイメージしやすいと思います。

ですが、実は携帯電話のモバイル通信に関わる「基地局」というものを、MVNOは独自に保有していません。

では、どのようにして格安SIMを運用・提供しているかと言えば、大手キャリア、つまり「MNO」が設置して運用している基地局を借りているのです。

さらに加えておくと、MVNOは借りている基地局からそれぞれMVNOごとに異なる電波を発しているのではなく、ユーザーに提供する電波すらMNOから借りているという現状です。

つまり、大手キャリアとMVNOとの間において、基地局や発している電波の品質や規模の違いによって、電波が弱くなったりすることは無いということになります。

さらに、通信事業者が守らなければならない「電気通信事業法」によると「不当な差別的取扱い」を禁止しています。

つまり、大手キャリアはMVNOに対して何らかの不当・差別的な取扱をすることができず、電波の強弱の差を付けたくてもコンプライアンス面での問題となりますので無理なのです。

これは「災害時」など、ある意味でやむを得ないような事情があったとしても同様です。

例えば、災害で甚大な被害を受けた地域があったとしても、同じMNOの基地局を利用する大手キャリアのユーザーと格安SIMのユーザーで、通信の品質に差が生じたり通信を後回しにされるようなこともありません。

それでも電波が弱く感じる理由

ですが、「実際に電波が弱い」と感じている人がいることも事実です。

「火のないところに煙は立たぬ」とも言いますし、格安SIMで電波が弱いというイメージの火元はどこに有るのでしょうか?

基地局以外のMVNOの設備の混雑

まず、考えられる原因としては「基地局以外の設備の混雑」です。

先ほど「MVNOは大手キャリアと同じ基地局と電波を使っているから違いはない」ということを説明しましたが、これは「基地局まで」に関する比較です。

そこから先、つまり大手キャリアとMVNOで設備が分かれる部分に関しては何らかの違いが生じます。

大手キャリアとMVNOで基地局から先の設備で分かれる部分に関しては、MVNOの方で混雑が発生することがあります。

その際に全体的に「通信が遅く感じる」ことが多いのですが、これを「電波が弱い」と捉える人が多いのです。

厳密には異なる原因ではあるのですが、ユーザー目線で見れば通信速度が遅い原因が「電波が弱いこと」以外について理由がわからず、区別も難しい現状を鑑みると、無理もないと言わざるを得ないのです。

SIMロックフリー端末ならではの問題

もう一つは「SIMロックフリー端末の問題」です。

格安SIMに乗り換えるにあたってスマートフォンを買い替え、その際に「SIMロックフリー端末」を選ぶという選択肢もありますが、これの「相性」の問題です。

厳密に言えば、SIMロックフリー端末と使用する基地局との間で「周波数のずれ」が生じていることが原因です。

周波数とは、簡単に言えば「電波の種類」であり、基地局によってそのエリアのモバイル通信の需要に応じた種類の周波数を利用しています。

周波数に種類があるということは、当然ながら送受信できる電波の種類がある、つまり「周波数の相性」というものがあります。

通常、大手キャリアが販売しているスマートフォンの場合、そのほとんどは自社の使用する電波の周波数を全て網羅した端末を用意して販売しています。

しかし、大手キャリアで購入する場合は「SIMロック」がかけられており、購入から半年は格安SIMを使いにくくなっています。

それを回避する方法として、SIMロックがかかっていない端末を購入し、格安SIMで利用するという方法があります。

ですが、この場合だと特定のキャリアの周波数に合わせるということがなく、加えてSIMロックフリー端末が「海外市場向け」であることから、日本の周波数には合わせにくくなっています。

最近のSIMロックフリー端末は、日本の周波数に合わせた作りになっているものも多いです。

しかし、全ての周波数を網羅しているということでもなく、特定の周波数が使えないということもあります。

そうなると、例えば通信の需要の少ないエリアだと周波数の種類が少なくて利用できないこともありますし、周波数の種類が多い都市部では電波が混雑し、使用できない周波数があることによって通信速度が極端に遅くなってしまうこともあります。

SIMロックフリー端末と周波数の事情
使用する場所 山間部・人口の少ない都市 人口の多い都市部
周波数の数と
その理由・背景
・少ない
・通信の需要が少なく、遠くまで届く数種類の電波だけを使ってあまり中継せずともよくして、基地局を少なくしている
・多い
・使用者の密度が高く、基地局を多くすることで利用できる周波数の数を増やし、混線を防ぐ
SIMロックフリー
端末との相性
・使用できる電波の種類が少ないので、
「圏外」になったり電波が弱くなりやすい
・使用する電波は日本固有の物が多い
・昨今は日本の周波数にも対応しつつあるが、
使用できない種類の電波が多いと混線の影響を受け易い

MVNOの設備増強は何をやっているのか?

このように、格安SIMを利用するにあたっては少なからず電波が弱いと感じてしまうことは有るようです。

厳密には正しいとは言い切れませんが、ユーザーがそのMVNOが提供する通信サービスにどのような感想を持つかという点で見れば、決して間違った認識だとも言い切れないのも事実です。

では、MVNOは電波が弱いと思われるような現状を放置しているのかといえば、そうではありません。

サービスの品質に関わることなので、MVNOとしても「設備増強」を考えていないわけではないのです。

ただし、それが単純な話なのではなく、それなりに複雑で手間のかかる方法であるということも無視できないのです。

通信品質が不安な格安SIM

スマートフォンでデータ通信を行うにあたっては、よく「通信速度」を引き合いに出す事が多いです。

数値化して比較することができますし、早いほどに良いということが誰の目から見ても明らかです。あまり通信事業に詳しくない人でも、比較対象として利用しやすいステータスです。

しかし、SIMカードの良し悪しは、通信速度だげで測れるものではありません。

早い通信速度を安定して利用できるのであれば良いのですが、速いときもあれば遅いときもある、カタログスペックとは程遠い通信速度しか出せないというのであれば、使いやすいとは言えません。

いくら安くても、これでは流石に「安かろう悪かろう」に終わってしまいます。

現状、大手キャリアの長年の通信事業者としてのノウハウと設備投資の差によって、MVNOは通信品質において苦戦を強いられています。

ですが、通信速度と価格の安さだけでは大手キャリアとの激戦を制することはできません。

MVNOは、通信品質を向上させることで大手キャリアのシェアを奪わなければなりません。

そのためには何が必要になるのかと言えば、通信サービスの提供に必要な「設備の増強」です。

MVNOの設備と接続料の仕組み

次に、MVNOの設備と接続料の仕組みについて解説していきます。

MVNOの設備はどうなっているのか?

先ほども申し上げたとおり、MVNOは基地局などの通信事業の根幹となる部分に関しては設備を持っていません。

代わりに、MVNOは大手キャリアの持つ基地局を借りて通信事業を行っているのですが、MVNOに必要な設備を全く保有していないわけではありません。

MVNOが保有する通信設備は、携帯電話網とインターネットを繋いでいる部分です。

一般的に「PGW」や「ルータ」と呼ばれる設備であり、有り体に言えばそれらの処理能力には限界というものが存在します。

この点は、一般家庭のパソコンと同じようなものですね。

パソコンの処理能力が、使用目的に合わない程に衰えている場合はメモリの交換やパソコンそのものを買い換える必要があるのと同様に、MVNOが保有する設備も現状の処理能力が不足してしまう場合には「装置の追加」や「上位品に交換する」といった措置が必要になります。

MVNOの自社設備と携帯電話会社の設備を結ぶ接続回線区間

ですが、上記の設備投資・設備増強よりも必要なことは「接続回線区間」なのです。これをわかりやすく解説すると、MVNOが保有する通信設備と大手キャリアの設備を結んでいる回線のことです。

この回線は、MVNOがどれだけ多くのユーザーを抱えているかで、必要な接続帯域が異なります。

基本的に、契約しているユーザー数が多くなるほどに回線速度も強化する必要があります。

この回線は一般的に100Mbps~10Gbpsの帯域が設定されていますが、実際の接続帯域はMVNOと大手キャリアの間で結ばれている契約に基づいた回線速度で制限されています。

そして、接続帯域に比例した料金を、MVNOから大手キャリアに支払う必要があります。

簡単に言えば、回線速度1単位あたり◯万円という料金設定であり、仮に1Mbps=10万円のレートで500Mbpsの契約を行う場合、5,000万円という金額が毎月、大手キャリアに支払われることになります。

設備増強工事の実態

さて、MVNOがより多くのユーザー数を抱えて、現状の回線速度では十分なサービスを提供できなくなった場合、MVNOは回線速度を増強するべく大手キャリアとの契約を変更する必要があります。

しかし、ただ書面で契約を交わすだけではなく、それに伴って「設備増強工事」を行う必要があります。

接続帯域を増強する工事

MVNOと大手キャリアとの間では、接続帯域に関する契約が交わされており、それに応じた金額を大手キャリアに支払うことになります。

その回線の技術的な限界値までは、契約を変更することでより高い接続帯域を利用することができます。

ですが、その際には契約に関わる交渉だけではなく、契約成立後の接続帯域の確保のための「設備増強工事」が必要になります。

工事とは言っても、接続帯域の引き上げだけであればそこまで大掛かりなことは行いません。

余程のことがない限りは通信が切断されるようなことも無いので、おそらくユーザーのほとんどは「接続帯域の引き上げが行われた」とは気が付かないのではないかと思います。

加えて、後述の「通信が切断されるほどの工事」ではない場合、つまり工事にあたってユーザーに対して何らかの理解を求めなければならないケースではない場合だと、工事を行うことすら告知しないことも考えられます。

通信が切断されることがなく、ユーザーは特に気にする必要もないので、告知の必要性が薄いのです。

MNOとMVNOの設備をつなぐ専用線を増やしたり、交換する工事

しかし、常にそのパターンであるとは言えません。

先ほど「回線の上限値までなら変更できる」ということを説明しましたが、では「回線の上限値まで引き上げた後」の工事はどうなるのかという疑問が発生します。

この場合、既に回線の限界値まで接続帯域が引き上げられているため、これ以上の引き上げはできません。2Lのペットボトルに、それ以上の水は入らないのと同じことです。

では、3Lの水を持ち運びたければどうすればよいのかと言えば、「ペットボトルを増やす」か「2Lよりも容量の大きなペットボトルに変える」という方法があります。

回線速度の引き上げの場合、大手キャリアの設備との「専用回線の本数を増やす」か、「より高速の専用回線に変更する」ことで、接続帯域を引き上げることができます。

簡単な話だと思われるかもしれませんが、これはこれで問題が生じるのです。

単純に回線の限界値まで接続帯域を引き上げるケースとは異なり、回線そのものにアプローチが必要な工事の場合、より大掛かりな工事が必要になります。

同じ回線で接続帯域を引き上げる場合は数週間の準備期間で全て終わらせることができるのですが、回線を増やしたり交換する場合だと数ヶ月、あるいは1年以上の準備時間が必要になります。

さらに、このパターンの工事だとユーザーにもちょっとした悪影響が及びます。工事を行うにあたって、通信が遮断されてしまうという事態が生じます。

とは言え、さすがに何ヶ月、1年以上という時間の通信遮断は無く、事前に告知をした上で数時間程度のメンテナンスが行われるだけです。

何ヶ月もの準備期間が、そのままユーザーへの被害になるというわけではありません。

設備増強工事が終わると

大なり小なり、設備増強工事が行われて無事に完了した場合、そのMVNOの通信環境が大幅に改善される可能性があります。

ユーザー数が増えて接続帯域に余裕がなくなっていることが通信環境の悪化の直接の原因であった場合、通信環境は大幅に改善され、安定することでしょう。

しかし、通信環境の不安定さは、それ以外の原因でも引き起こされる可能性があります。

例えば「駅」「大型施設」のような人が密集するような場所で通信環境が不安定になる場合であれば、MVNOの設備増強では解決できないケースが多いです。

その場合、回線そのものの増強を行ったとしてもほとんどの場合で通信環境不安定さの解消は実現しないことでしょう。

また、仮に通信設備増強が行われることを知っていたとしても、それがダイレクトにユーザーのメリットに繋がるとも限りません。

例えば、本を購入して本棚に収納する場合、新しく本棚を購入しても既に用意してある本棚に余裕があれば新しい本棚の購入によるメリットは即座には現れません。

同じように、設備増強工事が「将来的な問題に対する予防策」である場合、現状の通信環境が改善されるというよりも「ユーザー数の増加を見込み、将来的に通信環境が悪化しないために前もって用意する」という場合には、ユーザーが即座に受けられるメリットは存在しません。

とは言え、通信設備増強が全くの無意味というわけでもありません。先ほども説明しましたが、大がかりな工事の場合は数ヶ月単位で時間を必要とします。

当然ながら、これには時間的コストだけではなく金銭的なコストも必要になります。膨大な時間とお金をかけてまでMVNOが設備増強工事を行うのは、綿密な分析を行い、メリットとデメリットを天秤にかけた結果です。

企業としての将来がかかることもありますので、ユーザーの目に見える範囲でわかりやすいメリットがなかったとしても、そこにはユーザーが理解することの難しい「将来的なメリット」が有るはずなのです。