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電力自由化で新電力へ変更した実績はどれくらい?現状と今後の課題は?

 

2016年からスタートした新電力は、既存の電力会社には無いサービスでお得な電気料金を実現しています。さまざまなサイトでも新電力について触れており、その半年前程から新電力の話題は注目されていました。

さて、新電力の利用からもうすぐ1年が経過しようとしていますが、電力自由化によって新電力へ乗り換えた世帯はどれくらい存在するのでしょうか。そこで今回は、電力自由化の「現状」と「今後」について解説していきたいと思います。

 

目次

電力会社の契約変更状況はどれくらい?

新電力への切り替えは、本格的にサービス提供が開始されてから1ヶ月で約80万件に上ります。その後、約3ヶ月間での累計の契約変更件数は、全国で約120万件にとどまっています。2ヶ月間で約40万件にとどまる新電力への切り替えは、全体で見ると約2%という数字にとどまっています。

そんな中でも特に顧客を獲得しているのは「東京ガス」や「大阪ガス」といったガス会社が運営する新電力です。

新規参入の電力会社は100社以上

新電力として名乗りを挙げた会社は、全国で100社以上であると言われています。当然ながら「提供エリア」の関係もあるので全ての電力会社が選択肢となるというわけではありませんが、これだけ多くの電力会社から選べるというのであれば、世帯ごとにお得なプランを見つけることはできるものと思われます。

ですが、実際には新電力のサービス開始からの累計で全体の2%程度しか切り替えが行われていないということになります。人によっては、明らかに少ない数字であると判断されるかもしれません。

なぜ、契約変更は伸び悩み?

契約変更件数が少ないことには、それなりの理由というものがあります。主に、以下のような原因が考えられます。

認知度が低い

まずは「認知度」についてです。知らなければ、確かに切り替えようがありません。ですが、詳しく調べてみるとこれが原因であるとは思えないのです。

「NTTコムリサーチ」が実施したアンケートによれば、新電力について「詳しく知っている」が約10%、「知っている」が約50%、「なんとなく知っている」が約36%で、「知らない」と答えたのは全体の約2%しかいなかったのです。

つまり、「新電力について知らなかったから」という理由で切り替えが進んでいないということでは無さそうなのです。

初物はトラブルや不具合を心配した見送りが多い

主に考えられる原因は、「日本人の国民性」に由来することです。新電力は、サービス開始からまだ日が経っていません。つまり、多くの人は「様子見」をしていると推測されるのです。

日本人というものは、どうしても「他とは違う」ということを嫌う性質があります。新電力とは、まさにそれなのです。電力会社を変更するということは、他の人と異なる電力会社を選択してしまうということになりかねないのです。

なので、周囲の人が電力会社を乗り換えたあたりのタイミングを見計らって、周囲の人たちと同じ電力会社を選択しようという動きがあるため、新電力開始直後はどうしても動きがゆるくなってしまいます。

新電力の数が多すぎる

また、新電力会社が100社以上登場したという話をしましたが、これが「多すぎる」という点も原因として否めないところだと考えられます。実際に利用することができる電力会社はエリアごとに異なりますし、電力会社ごとに異なる魅力があるかと思いますが、それでも多すぎるのではないかと思うのです。

新電力は「スマートメーター」による検針のための人件費等がかからず、低コストで参入できるということで数多くの企業が新電力として名乗りを挙げました。ですが、選択肢が多いということはそれだけ「比較の手間がかかる」ということになるのです。

また単純に、数が多すぎるという「雑多なイメージ」が、なかなか契約切り替えに踏み切れない原因の一つではないかとも思います。

手続きが面倒

さらに、「手続きが面倒」と考える人が多いことも事実です。実際、各電力会社のホームページには契約変更のための手続きの流れについても解説していますし、インターネット上では情報サイトでもこの情報を取り扱っています。

ですが、そもそもそういった情報を見ない人にとっては、いつまでも「新電力への切り替えは面倒そう」というイメージが付いて回ることになります。結局、新電力への切り替えをすることなく、その存在すら記憶の片隅に追いやってしまうことになるのです。

ひょっとしたら、この記事をご覧になっている人の中にも「そういえば新電力なんてあったなぁ」と思われた人もいるのではないでしょうか?

メリットが少ない

さらに言えば、新電力に切り替えるに当たっての「メリットの規模」が小さいのではないかとも考えられます。それこそ電気代が半額にでもなれば多くの世帯がこぞって新電力への切り替えに殺到し、電力会社はその対応に忙殺されたことでしょう。

しかし、実際に新電力に切り替えた世帯へのアンケートによれば、新電力への契約変更による電気代の変化は、1,000円未満という回答が最も多く、約3割に上ります。似たような案件で「格安SIM」というものがあり、これは大手キャリアと同じ水準のプランを利用するにあたって1ヶ月あたり数千円の月額料金の値上がり幅が期待できます。それと比較すると、電気代を下げられる幅があまり大きくないのです。

加えて、新電力というものは基本的に「電気を多く使う世帯」ほどお得であるとされています。これは新電力の多くが「300kWh以上」の単価を既存の電力会社よりも大幅に下げていることによるものです、しかしながら逆に電気をあまり使わない世帯にとってメリットが少ないのです。

電気をあまり使わない「単身世帯」は全体の約25%であり、この客層の獲得を意識できないと普及を推進することは難しいと考えられます。

電力自由化の今後の課題は?

最後に、新電力が今後も顧客を獲得し続けるために解決すべき課題についてまとめてみました。

トラブルや不具合をどう解決するか

まず第一に、現時点で新電力絡みで発生している「トラブル」や「不具合」を、いかに素早く解決し、高い再発防止効果を及ぼすことができるのかということです。これは特に重要な部分であり、これを原因として新電力への切り替えを渋っている層を取り込むことができるかという部分において大きな力となります。

新電力は数多くの企業が名乗りを挙げていますが、その全てが電力事業に精通しているわけではありません。有名企業も多数その名を連ねていますが、エネルギー事業そのものが初めての参入という企業も少なくありません。

新電力はサービス開始からそこまで時間が経っておらず、特にサービス開始直後はさまざまなトラブルが発生しました。数多くのトラブルの情報は、テレビだけではなくインターネット上にも情報が拡散し、多くの人にマイナスイメージを植え付けてしまいます。

また新電力1社で発生したトラブルが、時には新電力全体のイメージダウンに繋がる可能性もあります。トラブルの発生は新電力への不信感に繋がることなので、これを払拭して安定したサービスの提供を維持することが課題となります。

高齢者をうまく顧客として組み入れられるか

次に、「高齢者」をうまく新電力の顧客に組み入れることができるかという部分です。高齢者はどうしても「変化」そのものを嫌う性質が強く、新電力にもあまり乗り気ではない様子です。

しかし、新電力というサービスそのものは高齢者との相性が良いものであると分析することができます。まず「スマートメーター」による細かい電気使用量のデータ把握は、遠くに住む家族にとって重要なデータとなる可能性が高いです。似たようなサービスをスマートフォン向けに展開している通信会社もあるため、スマートメーターを利用する新電力が高齢者向けのこうしたサービスを展開することは理にかなっています。

もう一つは「電気の使用量が必然的に多くなる」ということです。特に定年退職後の方は、自宅で過ごす時間が長くなります。そして、気温の高い磁気や寒い時期にはエアコンで室温を管理することも健康のために必要になります。前述の通り、新電力は電気を使う世帯ほどその恩恵が大きいため、この点からも相性が良いということになります。

このようにいくつかの視点から見て、新電力は高齢者と相性が良いです。しかし基本的に変化を嫌う高齢者は、さらにインターネットを中心とした新電力の宣伝や情報開示にも疎いです。

つまり、新電力は高齢者と相性が良い性質を持ちながら、その反面で高齢者から遠い存在となっているのです。このギャップを解消することができれば、高齢者のシェアを新電力が獲得することもできます。

マイナスイメージをどのように払拭するか

最後に、「手続きが面倒」「プランが複雑」といった、トラブル以外のマイナスイメージをいかにして払拭することができるかという部分です。マイナス部分は、プラス部分以上に利用者のイメージを固めてしまうリスクがあります。

実際に、新電力への手続きはそこまで難しいものではありません。インターネット等で申し込み手続きを済ませて、スマートメーターの交換工事を行えばそれだけで新電力に切り替えることができます。ですが、これの周知があまり進んでいない印象を受けることも事実です。

また、プラン数の多さは多様な世帯への対応において有力ではありますが、その反面でプラン数の多さが「迷う」「雑多」「よくわからない」といったマイナスイメージを植え付けることも無視できません。

バリエーションに富みながらも、ぱっと見でそれぞれのプランの良さがわかりやすくなれば、そのマイナスイメージは払拭できるのではないかと思います。

まとめ

新電力は、未だに数多くの課題を残しています。ですが、言うなれば電力自由化は未だ黎明期であるとも言えます。今後は、現状の課題をクリアしつつ、新たな魅力の提供などについても期待することができます。

ですがその一方で、一足先に新電力の普及が進んだヨーロッパのように、新電力は次々と姿を消し、最終的に既存の電力会社の優位が覆らないことも考えられます。100社以上が名乗りを挙げた新電力会社も、果たして数年後には何社が残っているのか、現時点では想像の域を出ません。

しかしながら、新電力の登場が電気を利用する人たちにとって少なからずメリットになっていることも事実です。今後、いかにして利用者の利益を守りつつ、新電力が周囲の期待に応えられるかという部分に注目したいところです。