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格安SIMの向かう先は?「モバイルフォーラム2016」から考察

 

特定の企業を中心とした話し合いは、その企業に関係のない人にとって、他人事に過ぎません。

ですが、多くの人が利用するスマートフォン、その通信契約に関わる「格安SIM」に関する話し合いだとすれば、多くの人が他人事は思えない事情になります。

2015年の年末に総務省が立ち上げた「タスクフォース」では、格安SIMやそれに伴う大手キャリアに要求される内容などが話し合われました。

それについては、2016年から「ガイドライン」という形で大手キャリアに対して要請が行われています。

それに先駆けて、2016年3月に行われた「モバイルフォーラム2016」では、格安SIMに携わる業界の著名人が集結し、各自の意見が述べられました。

そこで、モバイルフォーラム2016の内容から、格安SIMが今後どのような方向性を持つのかということについて考察していきたいと思います。

目次

大手キャリアのサブブランドが強くなるのではないか(Y!mobile等)

まず、話が出たのは「大手キャリアのサブブランドが強くなる」という意見です。

先ほど話に出た「タスクフォース」では、大手キャリアの「実質0円でのスマートフォンの販売」が問題視され、ガイドラインにもその旨が記載されて、大手キャリアは従来の販売戦略を見直す事になりました。

その結果、2016年2月の販売数は各キャリアとも1~2割ほど落ち込むことになりました。

また、同じくタスクフォースでの要請内容の一つである「低容量・低価格プランの提供」に関しても、大手キャリアは1GBのプランを提供開始しています。

ですがこのプランに関しては、魅力を感じることは少ないのではないかと思います。

そもそもの問題として「MVNO」の存在を意識しているのに、1GBの容量がMVNOでは何倍もの容量が同価格帯で提供されているという、無意味な結果となっているのです。

ですが、大手キャリアはそれぞれに「サブブランド」と呼ばれるMVNOを保有しています。

  • docomoは同じNTTグループに「OCNモバイルONE」
  • auはKDDIグループが「UQ mobile」
  • SoftBankは「Y!mobile」

が存在します。

この中でも特に「Y!mobile」の動きが活発であり、Y!mobileへのMNP乗り換えに対して2万円のキャッシュバックを提供するなど、ユーザーの獲得に躍起になっています。

そして、キャッシュバックがあるということは、ある意味でタスクフォースの内容を遵守しているともとれます。

例えば、商品の価格が上昇すると、理論上はその商品の販売数は減少します。

今回の話においては、ガイドラインでも「実質0円でのスマートフォンの販売禁止」を掲げており、これによってスマートフォンの販売台数は減少しています。

新品の端末が売れなくなるということは、当然ながらその端末が中古市場に流れることもないので、新品市場だけでなく中古市場も減衰します。

これは、タスクフォースの中で話し合われている「中古市場の発展促進」に反する結果になるのです。

キャッシュバックがあれば、その金額を基にして新品の端末を購入するための原資を確保することになります。

2万円もあれば、端末によっては、ほとんど賄える金額になります。

つまり、キャッシュバックの試みは、新品市場の活性化とともに、タスクフォースで話題となった「中古市場の活性化」にもつながる行為になるのです。

Googleがソフトバンクと組んでMVNO事業に参入!?

今回のフォーラムでは、「Google」が米国で提供しているというMVNOサービス「Project Fi」についても触れられています。

今回、その話を切り出した人物は実際に海外でそのサービスを利用しており、「1ヶ月10ドルという、わかりやすい料金体系」および「世界120カ国で利用可能」さらに「未使用分は返金される」という点を大きく評価しています。

その時点では「Sprint」および「T-Mobile」のネットワークを借りて、Project Fiは運営されています。

しかし、もしGoogleがPreject Fiに関して、日本国内のキャリアと組んだ場合、大きな衝撃が走ることになると予想されています。

その理由としては、「加入者管理機能(HLR/HSS)の開放」と「訪日外国人旅行者の需要を奪う」とう点が指摘されています。

その具体例として、フォーラム内では、GoogleのパートナーがSoftBankであると想定していました。

現状、大手キャリアは、加入者管理機能をMVNOに開放するということに対して、かなり否定的な立場をとっています(詳しくは別記事にて解説)。

ですが、もし大手キャリアがどこかの企業と手を組むのだとすると、国内のMVNOよりもむしろ「海外のMVNO」と手を組む可能性が高いのではないかということが、フォーラム内で指摘されています。

「電気通信事業法」の改正に伴い、大手キャリアは自分が組みたいパートナーと自由に手を結ぶ事が可能になりました。

そうなれば、「誰と手を組むのか?」ということは営利企業としての合理的な考え方から見れば、イコール「自分にとって最もプラスになるところ」ということになるのです。

フォーラムではそれに関連する形で、KDDIと連携した「Apple SIM」についてや、「Microsoftが日本でMVNOを展開するとしたら、どのキャリアと手を組むのか?」と言ったことに関しての話し合いが行われました。

何にしても、世界的な企業と日本のキャリアが手を結ぶことになれば、どのようなことが起きるか想像することが難しくなります。

少なくとも、格安SIMを取り巻く環境は大きく変化することになります。

ユーザーも大きく動き、下手をすれば群雄割拠のMVNOではいくつかの企業が淘汰され、寡占に近い形に落ち着くのではないかとも考えることができます。

もし、何らかの形でそれが実現しそうになれば、経済系のニュースでは大々的に取り扱われることになるでしょう。

格安SIMでは、知名度が高い「楽天」と「イオン」が有利に

格安SIMという言葉が日本に登場し、多くのスマートフォンユーザーが格安SIMに乗り換えを行っている現状において、群雄割拠のMVNOが今後、自社の生き残りを目指すためにはどのようなことが必要になってくるのでしょうか。

「格安SIM」という名称で提供されている通信サービスは、しかし今後の事を考えると「いかにして『格安』から脱却することができるのか?」ということが重要であると指摘されました。

格安SIMという名称で親しまれていながら、なぜ「格安のイメージ」から逃れることが必要になるのでしょうか?

フォーラムでは「安い層を取りに行く必要は、絶対ではない」ということと、「ビジネス的には『先』がなく、お金を持っている人に満足して使ってもらえることが重要」だと指摘されています。

数多くの企業が参入しているMVNOですが、その中でも特にその点で有利だとされているのが「楽天モバイル」と「イオンモバイル」です。

なぜかと言えば、このMVNOは運営企業が「一般ユーザーの知名度が高い」ということが理由として挙げられます。

「楽天」「イオン」と言えば、多くの人が知っている企業名です。ユーザーの知名度が高いということは「安心感がある」ということになるのです。

特に、イオンモバイルの場合だと「全国のイオン店舗で故障修理を受け付ける」というサービスを展開しており、別記事でも解説している「実店舗・対面式のサポートがない」というMVNOの弱点を払拭しているのです。

他には、有名なコンテンツと関連したサービスを展開するMVNOも強みになるということを指摘しています。

また、昨今キーワードとなっている「IoT」も盛り上がりを見せているものの、下手をすれば「単なるトレンドワード」で終わってしまうのではないかという見方もあります。

確かにSIMカードがさまざまなデバイスに入り、インターネット産業が活性化することは期待できることではあるのですが、その反面で流れるデータ量が多くはないため、「採算がとれるのか?」という点が懸念されているのです。

フォーラムでは、「MVNOがiPhoneを扱うことができるのか?」という点も指摘されています。

既に米国ではMVNOがiPhoneを扱っているケースがあり、MVNOの安い料金でiPhoneが利用できるという点が魅力です。

現状、国内のMVNOはAppleと「iPhoneを扱えるように」と交渉しているものの、大手キャリアがそれを阻んでいるという話があります。

iPhoneは「iPhoneSE」のような比較的安価なiPhoneを登場させた経緯がありますので、今後も「スペックは最新モデル、お値段は据え置き」といったモデルが登場し、それをMVNOで利用するということになれば、節約志向のユーザーも気軽にiPhoneを利用できるようになってしまいます。

ユーザーとしては選択肢が広がることは魅力ですが、既得権益を持つ大手キャリアがそれを許すかどうかは、今後の展開次第であると言えます。

SIMフリー端末メーカーが抱える悩みとは?

フォーラムでは、「SIMフリー端末を扱うメーカーが抱える悩み」という内容でも話が行われています。

まず、Windowsスマホ「MADOSMA」を発売後、半年で「docomoのネットワークに繋がりにくくなり、その解決に時間がかかった」ということを指摘しています。

メーカーは「マウスコンピュータ」であり、発言者は「iOSとAndroidにはないWindowsの魅力を訴求していく」ということを表明しています。

国内では、2015年後半になってから、多数のWindowsスマホが登場しています。しかし、マウスコンピュータの強みとして「PC企業としての25年のノウハウ」があることを指摘しています。

コールセンターは24時間365日稼働し、内製であるためフレキシブルに動けることも強みであるとしています。修理も社内で行うことができる点も魅力です。

また、FREETELもWindowsスマホ「KATANA」を取り扱っています。

FREETELでは「フルラインナップ戦略の一環」であり、「法人からも需要がある」ということを説明しています。

「HTC」は、米国でWindowsスマホを展開していますが、そのラインナップの中心はあくまでもAndroid端末なのです。

「HTC NIPPON」によれば、「エンドユーザーがどれだけWindowsを利用するのか」ということ、まさに「卵が先か鶏が先か」の議論が社内でも続いていることを指摘しています。

日本で展開できない理由として、「ネットワークの互換性」や「アプリの起動検証」など、さまざまな内容を検証しないことには、日本では展開できないとして、日本での本格投入に関しては未定であるとしています。

一つの問題として、日本のSIMロックフリー端末市場においては、さまざまな海外メーカーが既に参入しています。

しかし、問題となるのは「海外メーカーが、どれだけ日本固有の事情を理解しているのか?」ということです。

仮に海外で売れている端末であっても、日本で売れるとは限らないが、日本でも売れると期待しているベンダーが少なからず存在します。

海外だと「売りっぱなし」で購入後のサポートが疎かになっているメーカーも存在しますが、日本の場合はそうもいきません。

「どんな人に使ってもらうのか」を考慮し、「どんなメリットがあるのか?」ということを明確にしない限り、日本での販売は難しいということです。

昨今は、日本の事情に合わせた端末を展開する海外メーカーも少なからず登場しています。その最たるものとしては「周波数」です。

日本で使用されている電波の周波数は、海外のそれとは大きく異なるものが使われています。

ですが日本での使用をあまり考慮していない従来の海外製SIMフリー端末は、日本の周波数にほとんど対応しておらず、多くの場所で圏外扱いになってしまっていました。

現在は、日本の周波数にも数多く対応する端末が開発されてきている点は、少なからず日本の事情を海外メーカーが考慮してくれている証拠です。

他には、日本では「ガラケー」のユーザーが未だに多いことも指摘し、これが世界的に見ても珍しい市場形態であることが指摘されています。

そのため、どこから手を付けるべきか判断が難しいというのが、日本の市場の特殊性であることがわかります。

さらに、日本の「流通コストの高さ」が懸念材料であるとしています。いわゆる「流通革命」が起きない限り、スマートフォンのメーカーは苦しい立場から脱却することは難しいだろうとしています。

日本全国に流通が必要になるスマートフォンですから、どうしても流通コストは高くなりがちです。この点は、難しい事情であると締めくくられています。

端末のカスタマイズに関しては、「カメラのシャッター音」が話題として上がっています。

これに関しては「特定のメーカーだけで行うのには弊害がある」とした上で、「音のバリエーションを増やすのは選択肢としてはアリ」という意見が出ています。

技術的には、シャッター音を消すこと自体はできなくはありません。問題なのは「盗撮」などの「撮影による迷惑行為」が横行しているところにあります。

確かに、騒音とも言えなくもないシャッター音を消せるというのは一種の利便性でもありますが、その反動として盗撮行為が露見しにくくなるという弊害があります。

つまり、この問題を解決するためには「盗撮行為を行わないというモラルを養う」ということなのですが、それが不可能なことは誰の目から見ても明らかです。

最後に、「スペック競争と価格のバランス」という話題が上がりました。

スマートフォンには、色々な機能が搭載されていますが、端末ごとに利用できる機能とそうでない機能はさまざまです。

それもまた、端末を選ぶ際の比較対象として取り挙げられるわけですが、メーカーとしては競合他社との競争に勝つために、可能な限り多くの機能を取り入れたいと考えます。

機能を使う使わないはさておき、多機能であるということ自体は悪いことではありません。

ですが、それにはコストもかかりますし、技術的な問題や、特定のジャンルの端末に新しい機能を搭載するということには高いハードルがつきものです。

この点は、今後も各メーカーが関連企業との交渉などを経て解決していくしかありません。

「格安」と呼ばれてもいいのか?

格安SIMや格安スマホという言葉は、現在では多くの人が少なくとも「名前を聞いたことがある」という程度には普及しています。

ですが、MVNOや端末のメーカーにとっては「格安という名称がつくこと」に対して少なからず抵抗があるという懸念があります。

なぜなら、格安という言葉に対して、日本では「安かろう悪かろう」というイメージが先行してしまうからです。

メーカー側としても、SIMや端末には適正価格をつけて、それが結果的に既存のサービスよりも安いと言うだけの結果論に過ぎず、そこに格安とつけたのは、あくまでの消費者の側だということなのです。

とは言え、格安SIM」や「格安スマホ」に代わる名称は何なのか、という問題が浮上します。

2015年度のMVNOは、端末こそがその躍進を支えたものであるという意見も出ています。

端末の価値をユーザーが認めていくことで、次第に「格安」という名称は払拭されているのではないかという指摘です。

事実、日本でも「昔は◯◯と呼ばれていた」というものは少なくありません。

時間が経過することで、よりふさわしい名称がその対象に与えられるということは、考えられないことではないのです。

今後、価格面ではなく品質の面で企業が努力を重ねていくことで、「ただ安いSIM」「安いことが印象的な端末」が、それだけの価値ではないということを証明していくことにつながります。