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食育と知育から生きる力を育む。大阪・阿倍野のこども食堂「すきっぷ」が目指すもの

こどもたちの孤食対策として、全国に広がりつつある「こども食堂」。
低価格でこどもだけで来られる食堂というイメージの方が多いと思います。
大阪・阿倍野の「なにわの料理教室 健彩青果」で月に2回開催されている、こども食堂「すきっぷ」では、従来のこども食堂のイメージに捉われず、こども食育キッチンとして活動を展開。
食のプロと学びのプロがタッグを組んで、こども食堂の新しいあり方を構築しようと挑まれています。
今回は、実際に「すきっぷ」にお伺いし、活動の内容やこどもたちの様子に密着してきました。
 

目次

こども食堂「すきっぷ」とは?

【左】大畑千弦(おおはたちつる)さん
「ちーこさん」「ちーこ先生」の愛称で親しまれている、なにわの料理教室・健彩青果の主宰。
【右】木本丘子(きもとたかこ)さん
母親でありながらも、こどもとおとなの学びの場「まなまな」を運営するNPO法人yucocoの代表。

一般的にメディアで報道される「こども食堂」というのは、近年のライフスタイルの変化によって、こどもがひとりぼっちで食事をとる「孤食」の対策として行われているイメージが定着しています。
そういったイメージだけが広がって、こども食堂にはかわいそうな子が行っているといった偏見が生じることもしばしば。
しかし、大阪・阿倍野で開かれている子ども食堂「すきっぷ」は、そういった世の中の偏ったイメージを取っ払って、もっと沢山のこどもたちが条件なく気軽に来られる憩いの場を目指されています。
他のこども食堂と違うのは、食事だけでなく、学びの要素も取り入れ、こどもたちの自発的な行動や食に対する興味を育む取り組みも実践されているところです。
そんな「すきっぷ」の名前にも、こどもたちがとにかく楽しめることを第一に考え、心をスキップして来られる場所でありたいという想いが込められているのです。
食事の面では、大畑さんがメニューを考案して作り、こどもたちに食の楽しさを教える役割を。
学びの面では、木本さんがこどもたちのお世話や保護者とのコミュニケーションの役割をそれぞれ担って運営をされています。

こども食堂「すきっぷ」の活動に密着!

今回訪れたのは、天王寺駅から徒歩15分ほどの場所にある「なにわの料理教室 健彩青果」。
普段は大畑さんの料理教室としてオープンしていますが、月2回はこども食育キッチン「すきっぷ」の会場として使用されています。
住宅街の一角にあるので近所の目が届きやすかったり、近くには高校や中学校があって下校中や部活動中の学生がいたり、こども一人でも安心して来られる場所となっていました。

なにわの料理教室 健彩青果の正面入り口。
手作りの看板が目印になっています。

さっそく中に入ってみると、この日の予定がブラックボードに書かれていました。

時間ごとの予定がわかりやすく記入されています。

今回は木本さんが運営されているスクールの真鍋先生が来られて、遊びの先生をされる予定。
ブラックボードには書かれていませんが、地元の高校生がお手伝いに来てくれるそうなので、短い時間で盛りだくさんの内容となっています。

15時 宿題やお手伝いの時間

「すきっぷ」には15時過ぎに訪れたのですが、すでに数人のこどもたちが宿題をしていて、食堂というよりも家庭のような雰囲気が漂っていました。

宿題の漢字ドリル。しっかりノートに写しています。

このように15時から16時の間は、「すきっぷ」に来た子から宿題をする時間となっています。学校を終えたこどもたちが続々と集まってくるので、徐々に賑やかさが増してきます。
現在、「すきっぷ」には、小学2年生~4年生の児童が集まっていて、学校のお友達同士や姉弟で来ている子もいたり、みんなとても仲良しです!
宿題が終わった人は食事の手伝いをしたり、みんなで遊んだりします。

玉ねぎの皮むきのお手伝いをする子たち

実は今回、初めてこどもたちに玉ねぎの皮を剥いてもらったそうで、「玉ねぎの皮ってどこまで剥いたらいいん~?」と不器用ながらも一生懸命、皮むきを手伝ってくれていました。

手作りのカルタ遊び。
真剣にカルタとにらめっこしています。

16時半 真鍋先生と高校生と遊ぶ時間

真鍋晶子(まなべあきこ)さん
幼稚園教諭や保育士の資格を活かし、こどもたちの生きる力を育てる「知能開発教室」の先生として活動。

16時半になると、真鍋先生と高校生のお姉さんが来てくれました。
こどもたちと高校生はお互い初めて会うので、1人ずつ自己紹介をして親睦を深めていきます。高校生1人で2人のこどもをみる3人体制になるため、同じチームの子の名前をしっかり覚えていました。

地元の高校生。部活動の一環で「すきっぷ」のお手伝いに来てくれました。

真鍋先生は普段から自身のスクールで、牛乳パックなどの廃材や身近にあるものを使った工作あそびをされています。
今回はストローとモールを使った遊びを教えていただきました。
遊び方はとても簡単で、ストローの先にモールをつけて形を整え、その中に発泡スチロールを置いてから息で飛ばし、紙コップでキャッチできたら成功!といったものです。
言葉で説明するのは難しいので、実際に出来上がったものをみてみましょう!

完成見本のおもちゃをこどもたちに見せる真鍋先生。

真鍋先生から作り方を教えてもらったら、全員に一つずつ材料を配って作り始めます。
ただ配るだけではなく、「誰から配ろうかな?姿勢の悪い人には渡せませんよ~」と声をかけていたのが印象的でした。
その一言があるだけで、こどもたちは魔法にかかったように背筋をシャンと伸ばすので、真鍋先生の知育遊びの素晴らしさを感じることができました。
いざ工作を始めると、高校生が率先してこどもたちの補助をし、こどもたちも真剣に高校生の説明を聞きながら、夢中になって工作している様子を見ることができました。

高校生が作り方を教えている様子

出来上がったおもちゃで遊んでみると、意外と難しい!発砲スチロールの玉がどこに飛んでいくか分かりません。
自分で玉を飛ばして紙コップでキャッチしたり、こどもたちが飛ばした玉を高校生がキャッチしたり。
そんなに簡単すぎず難しすぎないゲームで、こどもたちも高校生もキャーキャー叫びながら楽しく遊んでいました。

高校生が中心となって、みんなで楽しく遊べました!

17時 お待ちかねの夕食の時間

17時を過ぎると、いよいよ夕食の時間になるので、みんなでご飯の準備。こどもたちが遊んでいる間に、大畑さんが心を込めて料理を作ってくれていました。
「すきっぷ」では、自分で食べられる量を自分でよそって食べるということも取り組んでいます。
自分でよそい完食することは、食材を残さず食べることの大切さ、自分の食べられる分量を知ることを目標に実践されているようです。
実際にご飯の時間になると、こどもたちが自ら食器をもって、自分で盛り付けをしたり、ご飯や味噌汁も自分が食べられる量だけをよそったりする姿を見ることができました。

自分の食べられる量だけをお茶碗によそっています。

今日のメニューは、
・塩鮭とジャガイモの玉ねぎあんかけ
・焼きなすの中華風オムレツ
・彩り野菜とヒジキの胡麻和え
・ごぼう、人参のお味噌汁
・白ご飯
です。

おかずも食べられる分量だけ盛られています。
和食がメインとなっていて、どれも美味しそう!!

そして、食べる前にはクイズを行うのが定番!
「何の食材が使われているか」が問題です。これは食材に興味を持ってもらって、食材の味と名前を覚えてもらうことを目的とされています。
大畑さんが「左上のお皿に入っているのはなんですか?」と聞くと、みんな一斉に手を挙げて、積極的に答えようとします。
もちろん入っていない食材を言ってしまったり、間違っているのに何度も「ゴーヤ!」と答えたりする子もいました。
でも最終的には、みんなで協力して、野菜の胡麻和えに入った「ニンジン」「ほうれん草」「えのき」「ヒジキ」といった食材を当てることができました。

「はい!はい!はい!!」とみんな積極的です。

クイズが終わるとみんなで「いただきま~す!!」
どの子も美味しそうに食べていて、仲良くなった高校生のお姉さんたちとおしゃべりしながら、楽しい夕食の時間を過ごせていました。

最後に残った野菜もしっかり食べます。
最後はみんな完食できました!!

食べ終わったら後片付けも自分たちで行います。

18時 さようならの時間

全員が食べ終わると、あっという間に18時。みんなとさようならの時間です。
こどもたちは高校生のお姉さんたちとお別れをして、お母さんお父さんと一緒にお家へと帰っていきました。

バイバイ!お姉さんまた遊んでね!!

「すきっぷ」の感想をこどもたちと高校生に聞いてみた!

今回、こども食堂「すきっぷ」に密着させてもらいましたが、最後にこどもたちと高校生一人ずつに感想を書いてもらうことにしました。

さて、どんなことを書いてくれたのでしょうか!?
まず高校生の感想からみていきましょう。

「こどもたちの方から話をしてくれてうれしかった」
「またこのような体験をしたいです」

このように高校生たちにとっては、普段あまり経験できない小さいこどもたちと遊ぶことが楽しかったようです。
はじめは何をしたらいいか緊張をしていた様子でしたが、あっという間にこどもたちの輪に溶け込んでいった高校生にも感心しました。
高校生たちの学びの場にもなると思うので、これからもこどもたちとのつながりを持ってほしいと感じました。
それでは、気になるこどもたちの感想をみていきましょう。

「ごはんがおいしかった!」
「おねえさんたちと工作したのが楽しかった」

ごはんが美味しかったという感想はもちろんですが、やっぱり今回はお姉さんと工作をして遊んだのが楽しかったようですね!
こどもたちも年の離れた高校生と関わることで、同世代の子たちと遊ぶのとは違った楽しさがあるのだと思います。
みんなで楽しくご飯を食べた思い出だけでなく、お姉さんと一緒に楽しく遊んだ記憶も残ると思うので、きっと大きくなってから思い出せるような楽しい思い出になったのではないでしょうか。

大畑さんと木本さんが「すきっぷ」で大切にされていること

今回はこども食堂「すきっぷ」に密着させていただき、ありがとうございました。
食事の準備は大畑さん、学習や遊びは木本さん、というように上手に役割を分けられていることが、実際の様子からもわかりました。
そんな「すきっぷ」の二大柱でもあるお二人が「すきっぷ」の活動をする上で、大切にしていることや心がけていることを教えていただけますか。
「すきっぷ」での献立は野菜を中心に考えていて、和食の味付けにすることにこだわっています。
和食はあまり油を使わなかったり、濃い味付けにしなかったり、素材の良さを活かして作る料理です。

こどもたちに素材そのままの良さを知ってもらい「この野菜はこんな味がするんだ」と記憶に残してもらいたいと思っています。
また、はじめは全部ワンプレートの食事にする予定だったんですね。

でもお茶碗やお椀を持ち上げて食べるといった動作は和食ならではの文化なんです。
だから主食のごはんにはお茶碗を、味噌汁にはお椀を別々に用意することにしました。

お味噌汁も入れる具材を変えると味も変わるんですけど、それだけではなく出汁の種類も変えています。
かつおとこんぶだけだったり、自分で干したきのこから出汁をとったり、出汁のバリエーションにもこだわっています。

窓際に干してあったきのこ。これで出汁をとるそうです!

自分も母親だからこそ思うんですが、やっぱり不安な場所にはこどもを預けられないですよね。
「すきっぷ」では、お母さんやお父さんがここだったら安心してこどもを預けられると思ってもらえる場所にすることを心がけています。

特にお迎えの時間は保護者の方とのコミュニケーションを大切にしています。
例えば「今日はこんな嫌いなものがあったけど、頑張って食べた」とか、その日のこどもの様子をこと細かく伝えるようにしています。

また「すきっぷ」から帰ってきたこどもたちの笑顔があれば、保護者の方々も安心してもらえると思っています。
だからこそ、こどもたちが楽しめて笑顔になれる場所にすることを第一に考えています。

こども食堂「すきっぷ」のこれからについて

最後に「すきっぷ」のこれからの目標についてお伺いしました。
大畑さんと木本さん、そして二人を巡り合わせ「すきっぷ」を始めるきっかけを作られた、林田さんにじっくりとお話を聞かせていただきます。

林田英大(はやしだひろ)さん
キッズ・プロテクト・アクトの事務局代表。小学校のPTA会長を務められた経験や人脈を活かし、以前から展開していたこども食堂を継続すべく、大畑さんと木本さんの架け橋となり「すきっぷ」の活動を支える。

いまの取り組みをみても、ほかのこども食堂とは一線を画す「すきっぷ」ですが、これからはどのようなことを目標にされていますか。
今はこどもたちが自主的に行動できる力を育むために、食事の準備やあと片付けをしていますが、これからはこどもたちで食事を作ることも重要だと考えています。

そうすることで食事は与えられるのではなくて、自分たちで作れるものだと思えるし、お母さんがいなくても料理ができるという自信にもつながります。

これからの新たな取り組みとしては、こどもたちも一緒に料理ができる環境を作りたいと思っています。

こどもたちが玉ねぎの皮むきをしてくれていたのは、その取り組みのひとつだったということですね。
そうですね。こどもたちにも手伝ってもらえるように、玉ねぎの皮むきとか包丁を使わずにできる単純なことから、やってもらいたいです。

自分が生きていくうえで必要な食事を作れない、ということはよくないなと感じています。
やっぱり自分が食べるものは自分で作れた方が、豊かな食生活のためにいいと思うんです。

そこで、こどもの頃に誰かと一緒に料理を作った経験が活きてくると思います。
大人になってから「あのとき料理を作るの楽しかったから、やってみようかな」と思うこともあるかもしれません。

こどもたちにできることから料理に参加してもらいたい理由は、料理を始めるキッカケを作りたいと考えているからです。

こどもたちも一緒に料理をするのは、こどものためになると思います。木本さんは、「すきっぷ」をどういった場所にしていきたいですか?
将来的にはこの場所にお母さんも一緒に来られる場所にしたいですね。こどもだけでなく、お母さんも一緒になって食事を楽しめるようにしたいと思っています。

大畑さんが作る料理は、スパゲティやハンバーグ、カレーといったこどもが大好きな料理ではないんですよね。
いわゆる昔おばあちゃんが作ってくれたような和食なんですけど、味は現代風になっていて、今の子でも食べやすいんです。

そうだったんですね!
そういった料理を提供する場にお母さんたちが居てくれると、「この味付けはどうなってるの?」「作り方教えて!」といった会話が広がると思うんです。

お母さんにも食への興味を持ってもらって、食材の栄養価や和食の作り方を知ってもらいたいと思っています。

その他にも育児の話を聞いたり、相談にのったり、コミュニケーションの場にもなればいいと思っています。

「すきっぷ」に親子で来てもらったら食事とこどもの宿題は終わっているので、家に帰ったらお風呂に入って寝るだけの状態にしてあげたいですね。
家事に育児に仕事に疲れている、お母さんたちの癒しの場になればいいと思っています。

それはいいですね!お母さんたちが楽できるけど、育児も食事も疎かにしない、理想の場所といえそうです。
そうですね。実は、今でも希望する親御さんにお弁当を渡せるようにしているんです。

少しでも家事を楽にしてあげることも重要だと考えていて、空いた時間に親子の会話を増やしてもらいたいですね。

またお弁当を家に持って帰ってもらうことは、共通の話題を作ることにもなります。

「今日はこれを食べて、美味しかったよ」みたいな感じで親子の会話を繰り広げてもらえればいいなと思います。

保護者へ渡すお弁当。
夜ご飯を楽にしつつ、お家での話題に。

こういった細かな取り組みだけでなく、二人の理想や目指しているものはすごく意識が高いものなので、二人に任せておけば、色んな事が実現できるんじゃないかと感じています。

そして最終的には、新しいこども食堂のあり方のモデルケースとして「すきっぷ」のような活動が、全国に広まってほしいと思っています。

ただこどもたちに食事を与えるためだけの食堂というのではなく、こどもたちが楽しめて、成長できる場所に。
こどもたちが生きる上で大切なことを教えながら、これからも色んなことに挑戦していきたいです。

大畑さんと木本さんには、それを成し遂げるだけのパワーがあると信じているので、これからどのように展開していけるのか楽しみです。

ありがとうございました。今後の活躍に期待をしています。

さいごに

こども食堂「すきっぷ」はこどもたちに食事を与えるだけでなく、生きる上で大切なことを学びながら、こどもたちが楽しめる場所。
こどもたちに食に対する興味を持ってもらう食育としての取り組みと、こどもたちが自主的に行動する力を身に付ける知育としての取り組みをされていることがわかりました。
これからも真鍋先生や地元の高校生といったように、様々な人が「すきっぷ」に関心をもって、どんどん地域の人たちを巻き込んでいくのではないかと思います。
さらに次のステップとして、こどもたちで料理をできるようになったり、お母さんも来られる癒しの場所になったり、「すきっぷ」が描く未来には沢山の可能性があります。
こどもの笑顔を、お母さんお父さんの笑顔を、地域の笑顔を、と笑顔の輪がどんどん広がっていき、「すきっぷ」の活動が全国に広まっていくことを期待しています。