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海外の電力自由化事例を紹介。大規模停電や値上がりしたケースもあるの?

 

日本では2016年4月から本格的に始動した「電力の自由化」ですが、諸外国では日本よりも早く電力自由化が導入されている国が多く存在します。

特に、欧米諸国でその傾向が強く、日本における電力の自由化の導入においても海外をモデルケースとして参考にしている部分が多いです。

では、日本よりも早く電力自由化が導入された国では、どのような変遷を経ているのでしょうか?それはつまり、日本における電力自由化の今後を占うことにも繋がるはずです。

 

目次

電力自由化に至った経緯と目的は?

日本における電力自由化の促進は、2011年の「東日本大震災」がきっかけとなっています。

大規模集中電源に依存した電力システムには限界があり、需要家への多様な選択肢の提供および多様な電気供給力の最大活用によるリスク分散と効率性を確保できる分散型の次世代システムの実現こそが必要であると結論づけています。

既存の電力会社以外の電力会社が、企業などの大口の電気契約を結ぶという動きは、以前からありました。しかし、大震災と福島原発事故を受けて、民間レベルでの電力の自由化の必要性が高まり、ついに2016年4月に電力の小売りがスタートしたのです。

各国の事例を紹介

日本における電力自由化のスタートから、今の時点では1年ほどの時間が経過しています。

ですが、1年だけではこの新しいシステムの今後を見通すことは難しいです。そこで、日本よりも早く、電力の自由化を進めてきた欧米諸国ではどのような動きを見せているのでしょうか?

アメリカ

アメリカの電力自由化の歴史は比較的古く、法整備は1992年頃から、部分的な電力自由化の開放は97年からスタートしています。アメリカの電力自由化は、基本的に「州単位」で行われており、一時は約半数の州が電力自由化を実現していました。

ですが、現時点ではワシントンDCと15の州が電力自由化を行っているにとどまっています。つまり、紆余曲折の後に約10の州が電力自由化を中断しているということになります。

その失敗例の最たるものは「カリフォルニア州」です。カリフォルニア州では1998年から電力自由化をスタートしている、アメリカの中でも電力自由化の古参の部類に該当します。そんなカリフォルニア州が電力自由化を頓挫するきっかけとなったのは、いわゆる「カリフォルニア電力危機」と呼ばれる事件があったからです。

この折、電力需給の逼迫によって電力価格が高騰し、停電などを起こしています。その結果、当時の州知事はリコールされ、大手の電力会社が倒産しています。当然ながら民間へのダメージも相当なものであり、開始から数年後には、その後10年近くこれを中断せざるを得なくなったのです。その後、2010年には家庭用を除く需要家を対象とした電力の小売自由化が再開されるに至りました。

その一方で、「テキサス州」のように電力自由化を成功させた州も存在します。テキサス州では2002年から電力自由化をスタートさせています。電力消費量がアメリカ全土で最も多い州であるとされているテキサス州では、現在では150を超える電気の小売業者が存在しています。

テキサス州の電気料金は、一時的に燃料費口頭によるコスト増を受けての増額こそあったものの、おおむね市場原理に基づく競争が働いたことにより電気料金の低下が見られています。

その他にも様々な事例がありますが、電力の自由化を行っているのが全体の3分の1ほどに過ぎない数の州であることを見ても、全体的に見て大成功であるかと言われれば否定せざるを得ない結果となっています。

イギリス

イギリスにおける電力自由化も歴史が古く、1990年からスタートしています。当時は電気の価格が高騰しており、市場改革と消費者の負担減少という目的で電力の自由化が進められました。一般家庭向けの電力の小売りは2000年頃からスタートしています。

さて、電力の自由化がスタートした当初は、海外企業の参入も含めて数多くの企業が新電力として名乗りを挙げました。結果、高騰していた当時の電力価格は約40%下落しました。ここだけ見ると、当初の目的は果たせたかのように見えるのですが、実は電力価格の下落は一時的なもので、すぐに上昇傾向に転じてしまいました。

さらに、現在では6社ほどの大手電力会社だけで電力の小売りのシェアの9割を独占するという寡占状態に落ち着いています。加えて、燃料費高騰の影響を受けると6社が一斉に電気料金を値上げすると言った動きも見られています。

現在では電力の比較サイトが盛んに利用されており、大手6社の電力会社への切り替えもこのサイトから行うことができるといった利便性も確保されています。

イタリア

イタリアの電力自由化は上記までと比較すると遅めで、そのスタートは2007年からです。それ以前は「エネル」とう国営企業がほぼ独占状態でした。電力自由化に伴っていくつかの電力会社が名乗りを挙げていますが、スタートから数年後の2011年、国営企業のエネルが以前8割のシェアを独占している状態です。

大口の電気消費顧客の切り替え率ほど、一般家庭における新電力への切り替えがスムーズに進んでいないという状況です。

一方でイタリアは「ガス」の自由かも進んでいたのですが、こちらも国営企業一本だったところが国営企業のシェアは同じく2011年当時3割弱まで落ち込んでおり、さまざまな小売業者が参入している影響もあってかある程度はシェアにばらつきが見られています。

イタリアでも同様に、電力比較サイトが盛んに利用されています。ですが一方で、提携している電力会社の情報しか掲載していなかったり、それを危惧した国営の比較サイトはあまり浸透していなかったりと、一般家庭への浸透がうまく進んでいないと言った印象を強く受けます。

ドイツ

次はドイツです。ドイツの電力自由化は、アメリカ等と同じようなタイミングで実施されています。ですが、ドイツにおいて実施された電力自由化は、あまり成功したものとは言い難いです。

ドイツの電力会社は、なんと1,000社以上にも及ぶ選択肢が存在します。加えて、その1,000社がそれぞれに独自のプランを打ち出しているため、消費者はなんと1万以上のプランから選択するというめまぐるしい状況になっていたのです。

もちろん、その全てを選べるというわけではなく、日本と同じく住んでいる地域ごとに選択肢は限定されます。しかし、特に主要都市である「ベルリン」「フランクフルト」やその近郊に住んでいる人は、100社にも及ぶ電力会社がその選択肢として数えられています。

その上で、ドイツで新電力に対して持たれているイメージは「不信」「不安」「不安定」といったマイナスなイメージが多く見られます。その理由として、ドイツでは前金を要求したり数多くの顧客を抱えたまま倒産した新電力会社がいくつか存在することが挙げられます。

加えて、新電力の中には詐欺まがいなキャンペーン等を展開する事例もあり、消費者にとって新電力はマイナスイメージの強い存在となり、元から存在する既存の電力会社への会期が多く見られるようになりました。

フランス

最後はフランスです。フランスの電力自由化は、イタリアと同じく2007年からスタートしています。フランスの電力自由化で目立つポイントとしては、それまで市場を独占していた「電気」「ガス」それぞれの国営企業が、お互いの市場に参入したという点です。

それから約7年後の2014年、市場の状況を見てみると旧国営企業の毒性状態はほぼ覆っていない状態に落ち着いています。それぞれの国営企業が約9割を独占し、それぞれ5%前後ずつがお互いのシェアを獲得しています。新電力も数多く参入していますが、国営企業2社と比較するとそのシェアは極めて限定的なものです。

その理由としては、第一に「競争相手がいない」ということです。日本のように「東京電力」「関西電力」といった地域ごとに異なる電力会社があればそれらが少なくとも競争相手となりますが、フランスの場合は国営企業による一社独占状態であったため、有力な競争相手が存在しないのです。

二つ目に、フランス政府は「国内競争」よりも「国外競争」を促進しているという点が見られるのです。フランス国内での電力のシェアで、第三位に位置する「EDF」という電力会社は、前述の「イギリスの大手6社」のうちの一社です。

フランス政府は、フランス国内にEDFの基盤を持たせることを狙っている様子があります。

三つ目に、フランス国内では新電力会社が電力の調達が難しいという点にあります。フランスはその8割が原子力発電です。新電力会社が調達するには非常に難しいという側面があります。

そのため、新電力会社は競争相手となるEDFから電気を調達することがメインとなるのですが、EDFよりも不利になる価格で電気を仕入れることになります。結果、EDFや国営企業ほど魅力的な電力プランを提供できないのです。

まとめ

このように、同じ「電力自由化」という看板を掲げながらも、国ごとに異なる結果につながっています。電力の自由化に踏み切った背景もそうですが、何よりも「それまでの電力の市場形態」や「自由化スタート後の市場の動き」が新電力の運命を大きく変えることになります。

また、「政府がどのようなアクションを起こすか」ということも重要な役割を担います。カリフォルニア州のように電力の自由化を中断することもあれば、ルールの整備によって新電力の推進に繋がる事も考えられます。ですが、常に予想通りの結果になるというわけでもないということは、欧米諸国の新電力関連の政府の動きからもいくつか失敗例が見て取れます。

日本では、1年が経過した現在、新電力の占める割合というものはそこまで多いものではありません。場合によっては、新電力は廃れて、イギリスのように寡占状態に落ち着く可能性もあります。せめて、ドイツの例のように新電力に対する不信感が生まれないようにしてほしいところです