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転職先の内定が取り消しに・・その事例や理由は?違法性はないの?

 

希望していた転職先に内定が決まって、いよいよ新生活のスタートを待つばかり…。そんな時期に、もし「内定取り消し」にあってしまったとしたらどうなるでしょうか?自分の将来のプランもその後の計画もすべて台無しになってしまうことでしょう。

ここでは内定取り消しのよくある理由や事例についてご紹介します。もしものときに備えて、対策を万全にしておきましょう。

目次

そもそも内定の位置付けとは?

最初に、「内定」という言葉がどういう意味を持つのか、きちんと確認しておきましょう。一般的に内定は、雇われる側が大学卒業後・前職を退職後など「将来の一定の時期から、貴社で働く」という意思を示し、雇う側も「将来の一定の時期からあなたを雇う」という意志を示す労働契約のことです。

以上が一般的な解釈ですが、法律的な解釈も確認しておきましょう。法律的に内定をどう扱うかについては、さまざまな学説が出ていて明確に定まっていません。しかし、過去の判例では共通して次のように扱われています。

「内定時点で労働契約が成立すること」、「実際の契約成立時期は将来のある時点であること」、「一定の理由がある場合、取り消しも可能なこと」。法的には、内定はこれら3つの条件を満たしているというのが実務上の解釈です。

内定取り消しされる事例とその理由は?

内定は、一般的にも法的にも、「一定の理由がある場合、取り消しも可能」として扱われています。具体的にどんな場合に取り消しがありうるのかよくある事例・理由を知っておきましょう。

内定者側の理由

転職先の入社日に間に合わない

内定を貰うときは、合わせて将来の入社日も決まります。もし、その入社日から実際に入社できなくなってしまったとしたら、内定の取り消しにあってしまうかもしれません。入社日に間に合わない理由としては、「前職の退職が間に合わない」、「転職に伴う引っ越しが間に合わない」などの理由が考えられます。

経歴などに嘘があった

「学歴を詐称していた」、「隠していた犯罪歴があった」などの場合は内定取り消しにあう場合があります。採用してくれた企業に対して嘘をついていたことになるわけですから、取り消しの理由としては十分でしょう。

内定後に妊娠が発覚

女性の場合、すでに妊娠しているにもかかわらず、それを隠して転職活動を行い、内定を貰っていると内定取り消しにあう可能性があります。妊娠しているのなら、近い将来出産のために休んだり、育児休暇を取得したりしなければならないでしょう。

転職先と合意の上ならばいいのですが、そうでなければ「入社後すぐに働けなくなるのに、それを隠していた」とみなされます。

健康上の問題を隠していた

現在の健康状況が仕事をするのに芳しくない場合や、持病などがあって仕事に支障をきたす恐れがある場合、それを隠して内定を貰うのは問題です。健康上の問題が原因で、企業側が想定していたような働きぶりができない可能性もあるからです。

もし、「持病はあるが、働く上で不都合はない」という方は、持病を理由とした内定取り消しに合わないように医師から診断書を貰っておくといいでしょう。

ネット上で問題のある行動をとった

これは現代社会特有の理由かもしれません。SNSなど、実名がわかるネットサービス上で採用担当者への愚痴や悪口を投稿して内定取り消しとなるケースがあります。ネット上での立ち振舞いは分別を持って行いましょう。

企業側の理由

業績が悪化し、人を雇えなくなった

経済がグローバル化した昨今は、世界的な金融危機が突如として発生することもあるでしょう。こうした不慮の業績悪化によって予定していた採用ができなくなった場合、内定取り消しを申し出てくる企業もあります。

より魅力的な転職希望者が現れたため、そちらを優先したくなった

企業の採用活動は、複数の転職希望者がいる場合、同時並行で進められます。仮にあなたに内定を出した後で、より魅力的な転職希望者が現れたとしたら「そちらを取りたい」と考えた企業が内定を取り消すことも考えられます。

上司の判断で内定が覆される

たとえば、「採用担当者の印象はよく、その人の職権で内定が出たが、その後経営陣に伝えたところ、『この人は気に入らない』と言われてしまった」というような場合、すでに出ていた内定が取り消されてしまう場合もあります。

当初「問題ない」としていた事項を後から問題視するようになった

「同じ業界で仕事をした経験がない」、「持病を抱えている」といった気になることを、面接時に確認して内定を貰っていたにもかかわらず、後から問題視して内定を取り消すというパターンです。「確認していたことを担当者が忘れていた」ということもありうるかもしれません。

内定辞退を促してくる

これといった明確な理由は伝えず、「内定と伝えていたが、やはり取り消したい。辞退してくれないか?」と逆に転職希望者側に対して依頼してくる場合もあります。

形式上、「転職希望者側からの辞退」となれば、企業側に傷はつかないことになるので、こうしたやり方で取り消しを迫られる場合もありえます。

企業の一方的な内定取り消しは違法じゃないの?

すでにご説明したとおり、内定は一般的に「労働契約」とみなされます。そのため、民法の労働契約法に基づいて取り扱われます。労働契約法の16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」との規定があるため、企業側からの一方的な内定取り消しは認められない場合が多いです。

損害賠償できるの?

過去には、企業側からの一方的な内定取り消しを不服として裁判に訴え、損害賠償を請求した事例もあります。大日本印刷事件、インフォミックス事件といった判例が有名です。

「大日本印刷事件」とは、内定を出した労働者に企業側が当初から「陰気な印象」を抱いており、「採用したくなかったがそのうち変化があるかもしれないと思い内定を出した。変化がなかったので内定を取り消した」という事件です。

裁判では「客観的に合理性を欠く」という理由から、内定者の訴えが通り、慰謝料や賃金支払いが認められました。

参照元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構

「インフォミックス事件」とは、ヘッドハンティングによって内定が決まった転職者が、転職先の業績悪化を理由に内定取り消しにあった事件です。

転職者は10年勤めた企業から転職を試みたのにもかかわらず、内定取り消しが伝えられたのは入社の僅か2週間前でした。このときも内定者の訴えが認められ、1年間の賃金支払いの仮処分が下りました。

参照元:社長のための労働相談マニュアル

このように、企業側から不当な理由で内定取り消しに合った場合、裁判に訴えて損害賠償を請求することは可能です。

内定取り消しの解決策

転職活動を行う際は、万が一に備えて内定取り消しの対策を行っておきましょう。内定の取り消しを未然に防ぐための対策と、取り消しにあってしまった後からもできる対応策をご紹介します。

内定取り消しを事前に防ぐ対策

「取り消し」の理由になりそうなことは事前に伝えておく

健康上の問題や過去の経歴など、内定取り消しの「客観的で合理のある理由」となりそうな事柄については、仮に企業側から質問がなくとも、こちらから伝えておくべきでしょう。もしこちらに隠す意図がなかったとしても、後で知られることになれば「隠していた」とみなされる場合もあるからです。

内定承諾書の内容を確認しておく

内定を通知されたとき、内定承諾書の記入を求められることがあります。内定承諾書とは、内定を受けるにあたって労働者に一定の誓約を求めるものです。

一般的には、「内定後、他企業への転職活動は停止する」といった内容が知られていますが、実はここに「業績悪化などを理由に内定が取り消されても受け入れる」といった条項が含まれている場合があります。内定承諾書を欠くときは、内容によく目を通し、取り消しに関する条項を確認しておきましょう。

取り消しを伝えられても、その場では回答しない

もし、内定後に取り消しを口頭で伝えられたとしても、その場では返事をしないようにしてください。「考えてから返答したい」などと告げ、一旦引き下がっておくのが得策です。その後どうするかについては、以下の「取り消し後の対応策」を参考にしてください。

取り消し後の対応策

「内定が出ていた」という証拠を残す

内定通知が口頭で伝えられただけのものだと、後から客観的に確認できません。裁判などに訴えたとき、「証拠がない」ということにもなりかねないので、「内定通知書」や内定通知のメールなど、形のある証拠を残しておいてください。

第三者に相談する

内定取り消しにあったら、1人で企業側と戦うのは困難です。弁護士のような専門家や、労働・雇用に関する問題解決に協力してくれる団体に相談しましょう。相談先の候補としては、ハローワークやその他の公共職業安定所などがあります。

内定辞退は絶対にしない

企業の都合による内定取り消しは難しいことから、形式上「内定辞退」に持ち込もうとする企業は少なくありません。仮に、「内定を辞退してほしい」と言われても簡単に受けるべきではありません。理由の説明を求めるなどして時間を稼ぎ、その間に第三者に相談するのがいいでしょう。

まとめ

転職にまつわる大きな不安要素である「内定取り消し」について、起こりうる事例とその理由、対策方法についてご紹介してきました。

内定は、働き始めるのが将来というだけで、一般には労働契約として扱われます。そのため、内定を取り消すには「客観的で合理的な理由」がなければいけません。

よくある内定取り消しの事例とその理由は、経歴詐称や健康上の問題を隠していたなど、雇用者の側に「客観的で合理的な理由」があるものもあれば、企業業績の悪化など採用企業側の一方的な都合である場合もあります。合理的な理由を欠く内定取り消しは法的にも不当とみなされるので、裁判を起こして損害賠償を請求することも可能です。

とはいえ、裁判はあくまで最終手段。内定取り消しの理由となりそうなことはあらかじめ伝えておくなど、未然にできる対策を行っておくのが肝心です。もし、内定の取り消しを通知されたなら、すぐには返答せず第三者へ相談するようにしてください。

内定取り消しは、誰にでも起こりうることではありません。しかし、「自分は大丈夫だろう」という油断が思わぬ事態を招くこともあります。せっかくの転職が悲しい結果に終わらないよう、万全の心構えで臨みましょう。