禁煙が失敗するのは「意思が弱いから」だと思っていませんか? 実はそれは大きな間違いです。意思が弱いから禁煙できないのではなく、ニコチン依存症だから禁煙できないのです。では、どうしてニコチン依存症になるのでしょうか。またどうすればニコチン依存症を克服して禁煙できるのでしょうか。
禁煙が失敗するのは「意思が弱いから」だと思っていませんか? 実はそれは大きな間違いです。意思が弱いから禁煙できないのではなく、ニコチン依存症だから禁煙できないのです。では、どうしてニコチン依存症になるのでしょうか。またどうすればニコチン依存症を克服して禁煙できるのでしょうか。
ニコチンはタバコの煙の部分で、強い神経毒です。毒性が強いために、現在ではニコチンの水溶液を害虫駆除の目的で使うことは法律で禁じられているほど。
ニコチンは毒性があるというだけではなく依存を引き起こす厄介な物質です。
初めて喫煙したときのことを思い出してください。たいていの人は吸った瞬間に「気持ち悪い」と感じたのではないでしょうか。その証拠に、タバコの煙の臭いが好きだという子どもはまずいません。
その理由は脳内にニコチン受容体がないからです。ニコチン受容体とは、ニコチンを受け取る神経のこと。どんなヘビースモーカーでも、最初の頃は気持ち悪さを我慢して吸っているのです
ニコチン受容体ができることで気持ちが悪かったタバコが、おいしいと感じられるようになり、ますますニコチンを摂取するようになります。その結果、喫煙が常習化します。
ニコチン受容体はニコチンを受け取ると、脳内にドーパミンを供給します。ドーパミンが脳内に増えると、人は「ストレス解消が解消する」「気持ちがいい」と感じます。
そのため、タバコを吸うと幸せな気分になることができるのです。
タバコを吸わない人の場合は、脳内にドーパミンが供給されるのは、日常生活の中で幸せを感じたときです。たとえば、おいしいものを食べたとき、何かを達成したときなど自分にとってよいこと、嬉しいことがあればドーパミンが供給されます。
非喫煙者は、ドーパミンの供給はそれだけで満足できるのですが、喫煙者の場合はそうはいきません。喫煙者は薬物であるニコチンに依存しているため、日常生活でどんなよいことがあってもドーパミンが供給されないのです。
非喫煙者はおいしいものを食べた満足感によって、ドーパミンが供給されます。一方、喫煙者はどんなおいしいものを食べてもニコチンを摂取しない限りドーパミンが供給されません。喫煙者は食事をしても食後の満足が得られないため、物足りなさを感じます。喫煙習慣のある人が、食後に必ずタバコを吸うのは、「食後の満足感を得たいから」という理由があるのです。
タバコをおいしいと感じるようになると、脳がニコチンを要求するようになります。なぜならニコチンを摂取すると、ドーパミンが安定的に供給されるからです。これがニコチン依存症の正体です。
ニコチン依存症になると、常習喫煙と呼ばれる状態になります。常習喫煙とは、毎日決まった時間、同じ状況になるとタバコを吸うというものです。たとえば、朝起きたとき、食後、車の中、仕事の合間、寝る前など同じパターンを365日繰り返します。
たとえ風邪を引いて熱があったとしても、それは変わりません。
喫煙は嗜好ではなく「嗜癖」(アディクション)といわれていますが、それは喫煙がニコチンを供給するということが目的の行為だからです。そのため、体内のニコチン濃度が下がるとタバコが吸いたくなるというわけですね。
喫煙者は、一定の時間が過ぎるとタバコを吸いたくなります。たとえば、高速道路のサービスエリアでは、禁煙の観光バスから降りてきた人たちが先を争って喫煙所に走って行きます。新幹線や飛行機を降りた喫煙者もまず喫煙所を目指します。
このとき喫煙者の脳内では、ニコチン受容体がニコチンを体内に入れるように要求しています。そのとき、喫煙者は一刻も早くタバコを吸いたいと考えています。
「禁煙に挑戦すると、イライラする、イライラするから禁煙できない」とよく言いますが、そのイライラこそがニコチンの離脱症状です。
他にも頭痛、めまい、不眠、眠気などの症状が見られます。離脱症状はニコチンを絶ってから、長い人で2週間程度続きます。
タバコが吸えないためにイライラしている喫煙者が、タバコを吸うと「ホッとする、頭がすっきりする」といいます。そのためタバコがますますやめられなくなります。
タバコによってニコチンが供給されると、脳内にドーパミンが放出されるので、脳は落ち着きを取り戻します。
しばらくの間は脳も落ち着いているのですが、時間が過ぎればまた脳はニコチンを要求します。禁煙しない限りこのサイクルは決して終わることがありません。
タバコには4000種類の化学物質と、200種類の有害物質、60種類の発ガン物質が含まれています。その中でも三大有害物質といわれているのが「ニコチン」「一酸化炭素」「タール」。その3つの物質は、人体に次のような悪影響を及ぼします。
ニコチンは強い毒性をもっていますが、危険性はそれだけではありません。ニコチンの害でもっとも深刻なのは、脳に影響を与えるという点。ニコチンはフィルターを通り越して直接脳に到達します。喫煙が習慣化すると、ニコチン依存症となり脳がニコチンなしではいられなくなります。血中のニコチン濃度が減るたびに離脱症状が起こり、脳がニコチンを欲するためイライラします。
喫煙者はニコチンが切れると集中できなくなりますが、タバコを吸うことですっきりし、脳が活性化するのです。ニコチン依存症になると、禁煙は非常に難しくなります。
ニコチン依存症を克服する一番良い方法は、禁煙外来を受診し3か月間、医師の指導にしたがうことです。他にも、タバコを吸いたくなったらそれに代わる行動、たとえば深呼吸、運動をする、ガムをかむなどという方法があります。
タールとは植物油脂のことで、いわゆるヤニといわれるものです。喫煙場所の壁が黄色くベタベタしているのはタールのためです。
掃除をしたことがある人には分かると思いますが、タールを除去するのはとても大変。ちょっと雑巾で拭いたくらいではとれません。
タバコを吸うというのは、この物質を体内に取り込んでいることになるのです。タールには発がん性物質が含まれていますが、喉や肺胞に付着します。喫煙者に肺がんや咽頭がんが多いのはそのせいです。
ニコチンの含まれた煙は粘膜に刺激を与えるのですが、タールがそれを緩和するためタバコが吸いやすくなります。つまりニコチン依存症の原因の一つにタールの作用があるわけです。
タバコの葉が不完全燃焼すると、一酸化炭素が発生します。一酸化炭素の恐ろしいところは、酸素の200倍の早さで血中のヘモグロビンと結合すること。
通常、ヘモグロビンは酸素と結合して、全身に酸素を運びます。ところが一酸化炭素とヘモグロビンが結合すると、全身の酸素が欠乏します。
喫煙を始めて、運動能力や持久力が低下したということに気がついていた人は多いのではないでしょうか。また、タバコを吸っていると吐き気を感じたり、気持ちが悪くなったりする場合があります。これも一酸化炭素の影響といわれています。
タバコの害は様々ですが、禁煙するのは難しいといわれています。禁煙が難しいのはニコチンの離脱症状のため。ニコチンの離脱症状を乗り越えられるかどうかが禁煙の鍵です。意志が弱いから禁煙できないのではなく、ニコチン依存症という病気であることを自覚しましょう。
禁煙を確実にするには、禁煙外来で受診するのが一番です。本気で禁煙を考えているのであれば、病院へ行きましょう。