携帯電話を新しく使用する際に、今まで使用していた携帯電話の番号を、異なる携帯電話会社への乗り換えでも使用することができるサービスとして「MNP(モバイル番号ポータビリティ)」というものを利用することができます。
これを利用することで、今まで自分の携帯電話番号を登録している知り合いや仕事上の付き合いのある人に対して、携帯電話番号が変わったことを通知する必要がなく、それによるトラブルも発生しません。
MNPは、大手キャリア間だけではなく、「MVNO」が乗り換え先であっても利用することができます。
つまり、大手キャリアから格安SIMに乗り換える際にも、従来の端末の携帯電話番号をそのまま利用し続けることができるということになります。
しかし、その際にはいくつかの課題があり、それを突破しないとMNPを利用できない、つまり格安スマホを従来の端末と同じ番号で利用できないということになります。
自分の携帯電話番号を知っている知り合いが多い人ほどMNPはメリットを持ちますので、課題があるからといってMNPを利用しない手はありません。
そこで、格安SIMとMNPの関係性について、以下の項目に分けて解説していきます。
格安SIMでもMNPは可能
まず解説しておくことは「格安SIMでもMNPを利用することはできる」ということです。
人によっては「MNPは大手キャリア間でしかできない」という間違った認識を持っていることもあるのですが、実際にはそのようなことはなく、大手キャリアだろうとMVNOであろうとも、MNPを利用して今までと同じ電話番号でスマートフォンを利用することができます。
また、「転入」と「転出」に関しても、特に制限はありません。転入先が大手キャリアだろうと格安SIMだろうと、転出元が大手キャリアだろうと格安SIMだろうと、関係なくMNPを利用することができます。
大手キャリアから格安SIMへ、もしくは格安SIMから別の格安SIMへの移動も、利用することができます。
ただし、MNPを利用してキャリアを乗り換えることができるのは「音声通話対応のSIM」だけです。データ通信用のSIMカードや、SMSに対応したデータSIMの場合は、MNPの対象とはならず、転入も転出もできません。
MVNOならではの悩みとは?
しかし、MVNOへのMNP転出には、全く問題がないというわけでもないのです。その問題点は、「MNPの手続き」と「MVNOの特徴」によって生じます。
具体的な問題点の内容としては「数日間、端末が使えない」ということです。なぜ、そのような問題が生じるのでしょうか。
まず、MNPの手続きについて簡単に解説していきます。
MNPは、「特定の電話番号を使用することができるSIMカードを切り替える作業」となります。転入先のMVNOは、ユーザーが取得した「MNP予約番号」をもとに転出元のキャリアに電話番号を照会します。
そして、「◯◯さんの電話番号を、ウチのSIMのカードで使います」ということを通達し、電話番号の使用権を新しいSIMカードに書き換えます。これを「開通手続き」と言います。
開通手続きをすることで、転入元のSIMカード、つまりユーザーの手元にある端末に挿入されているSIMカードは、その電話番号が使えなくなってしまいます。
電話番号は、新しいSIMカードに使用権が移っており、そのSIMカードを挿入した端末でその電話番号を使用することができます。
言い換えれば、開通手続きをした時点で古い方のSIMカードは電話ができなくなるということになります。
この手続きの仕組みと相性が悪いのが、MVNOなのです。上記の問題点は、大手キャリアであっても同様に発生します。
しかし、大手キャリアとMVNOでは決定的な差があります。それは「リアル店舗の有無」です。
各地に「ドコモショップ」「auショップ」といった店舗や、デパートなどの内部に窓口を構えている大手キャリアは、ユーザーが窓口まで出向くことで上記の問題点をほぼ皆無にすることができます。
問題点となるのは「開通手続き後、新しいSIMカードが手元に届くまでの時間」なのですが、窓口まで出向くことでその場で開通手続きを済ませてもらうことができます。
早ければ10分程度で終わる作業、つまり電話が使えなくなる時間が10分程度で済むということになります。
おそらく、今までにも外出先で充電が切れた等の事情で、10分そこらの時間であれば電話が使えなくなる時間もあったことでしょう。
よほど何か「電話が使えなくなると困る事情」でもあれば、その時間帯だけ避けて開通手続きを市に行けば良いだけの話です。
唯一の問題点としては「近くにショップや窓口がない」という場合ですが、その場合には後述のMVNOと同じデメリットを甘んじて受けるか、多少時間がかかっても遠くにあるショップまで出向く必要があります。
MVNOの場合は、リアル店舗を持たない業者が多いです。
例えば、業界最安値の「DMM mobile」も、リアル店舗を持たずインターネット上ですべての手続を済ませるMVNOの一つです。
リアル店舗を持たないMVNOの場合、格安SIMカードは業者の方で開通手続きをして、宅配することになります。
この「開通手続き完了後~宅配で自宅までカードが届くまでの期間」は、端末で電話が使えなくなります。
開通手続き後は、手元にある端末の中のSIMカードには電話番号が割り当てられていない状態なので、電話をかけることも受けることもできません。
開通手続き後の宅配までは数日かかりますので、言い換えれば「数日間、端末を使っての電話はできない」ということになります。
大手キャリアは数十分で完了するものが、MVNOの場合だと数日かかることになり、その差は一目瞭然です。
端末の主な使用目的によってその不便さは異なりますが、仕事にも使っている端末の場合だと、その悪影響は測り知れません。
いくつかのMVNOではMNPの手続きが行える店舗を開設
ただし、全てのMVNOでそうした「リアル店舗が無いことによる不通期間」によるデメリットが生じるというわけではありません。
MVNOの中には、リアル店舗、もしくはそれに類する窓口などを設けているところもあるのです。
そうした場所には、MNPに必要な書類と機材が置かれており、大手キャリアのショップでのMNPと同様に短時間でMNPの手続きを完了させることで上記のデメリットが生じないという恩恵を受けることができます。
では、全てのMVNOがこうしたリアル店舗を持たないものなのでしょうか。
「数十分でMNPが完了する」というメリットがあれば、MNPへの敷居も低くなり、多くの人がMNPを利用しての格安SIMへの乗り換えをスムーズに行えそうなものではあります。
ですが、MVNOは大手キャリアほど経営地盤がしっかりしていないところが多いです。
「店舗を構える」ということは、莫大な費用がかかります。また、以降の運営にも、維持費や電気代、何よりも店舗に置く人材の人件費が必要になります。
格安SIMは、ただでさえ通信料が安く、そう多くの費用をかけてしまうと通信料を値上げしなければならなくなります。
通信料が大手キャリアのそれに近づけば近づくほどに、格安SIMの旨味は減少し、わざわざ大手キャリアの安定性を捨てて手間をかけてまで格安SIMへの乗り換えはしなくなるでしょう。
なので、実際にMVNOが自社で持つ店舗というものは極めて少ないです。その代わり、他社の経営する「大型デパート」「家電量販店」「ショッピングセンター」といった店舗の一角に、MVNO用のコーナーを設け、そこでMNPの手続きを行うという手法が一般的なのです。
人経費はかかりますが、建物にかかる費用を大幅に削減することができ、営業力の乏しいMVNOでもリアル店舗でのMNP手続きのメリットを提供することができるのです。
MNPの切り替え作業を自宅でできる方法が導入された
とは言え、全てのMVNOで店舗や窓口を構え、そこでのMNP手続きが済ませられる仕組みが整っているわけではありません。
大手キャリアに比べると、その規模は極めて限定的であり、これでMNP転入先の格安SIMを決定する決め手とはなりません。
しかし、MNPによる不通期間が存在することのデメリットを無視できるわけでもありません。
そこで、MNPによる不通期間を解消するもう一つの方法について解説していきます。それは「自宅での開通手続きの仕組み」です。
上記までの問題点は「MVNO業者のほうで開通手続きをしてから配達されるまでの期間」が不通期間として存在していることで、その間の連絡手段が限られてしまうことで発生するデメリットが問題となっていました。しかし、配達にはどうしても時間がかかってしまい、数日間とはいえ端末での連絡手段が使えなくなるということには大きな弊害があります。最近では携帯端末のみ保有し、固定電話を持たない世帯が多くなっています。しかし、その世帯では携帯端末が使えなくなることで連絡手段が一つなくなることになり、端末での電話以外の通信手段を持たないと、実質的に数日間は音信不通になってしまいます。
そこで、「開通手続きを自宅で行う」という解決策があります。要するに、不通期間が生じる起点となる「開通手続き」を自宅で行うことで、店舗や窓口で開通手続きをする際とほとんど変わらない時間だけ不通期間が発生するようにすることができるのです。この方法は、MVNO業者の方で「電話番号の書き込み」だけ行い、「開通手続きさえすれば使える状態」にしておきながら実際には開通手続きをしていないので、古い方のSIMをカードはまだその電話番号が使える状態となっています。ユーザーの自宅に格安SIMカードが届いた後は、インターネットや電話で手続きを行うことで、開通手続きをすることができます。
従来は「開通手続き→宅配」という方法であるがゆえに、その間の不通期間が問題となっていました。しかし、上記の方法だと「宅配→開通手続き」にすることで、開通手続きを行う前に格安SIMがユーザーの手元にあるので、不通期間がほとんど発生しないのです。不通期間は、開通手続きをしてから格安SIMを端末に挿入して設定を行う間だけですので、よほど不器用な人でも1時間はかからないでしょう。今まで数日かかっていたのが1時間未満で済むとなれば、かなりの時間短縮になります。
この方法、KDDIの設備を利用していた「mineo」のauプランだとサービス開始の2014年6月から自宅での開通手続きは可能でした。しかし、ドコモ回線を利用している多くのMVNOでは、長らくこの方法を利用することができず、不通期間が発生するか、数少ない窓口持ちのMVNOを利用するしかありませんでした。
現在は、2015年9月からドコモ系のMVNOでもこの方法に対応するようになり、数多くのMVNOで「自宅での開通手続き」を利用できるようになりました。現在では「IIJmio」「DMM mobile」「楽天モバイル」「OCNモバイルONE」といった、知名度の高いMVNOでも自宅での開通手続きを行うことができるようになっています。もちろん、全てのMVNOでこの方法が採られているわけではないので、申し込みに際しては事前にその点をホームページで確認する、もしくは問い合わせをする等して確認しておきましょう。
SIMカードの管理やMNPの手続きには、大手キャリアの設備が必要
前述の「自宅でのMNPはau回線のmineoなら昔からできた」という話にもあるように、どうしてもSIMカードやMNPの手続きといったものは、大手キャリアの存在なしには実現できないのです。
もし仮に、大手キャリアが「MNPサービスを中止する」と言ってしまえば、より数多く存在するMVNOも全てMNPを利用してもらうことができなくなってしまいます。
それは極端な例ではありますが、何にしてもMVNOは独自にSIMカードやMNPに関するサービス等を変更することは出来ないのです。
現在、「SIMカード発行」「MNP利用に関する顧客管理システム」といったものは、全て大手キャリアが行っており、MVNOはそれを利用している立場になります。
同時に、それらに関する機材なども、大手キャリアから提供されているものを使っています。
なので、MVNOが独自の方法でMNPの手続きを行ったり、SIMカードへの書き込みなどを行うことは出来ないのです。
根幹となる大手キャリアのシステムに大幅な変更があれば、MVNOもその影響をダイレクトに受けてしまうのです。
これと先ほどの「mineo」の件のつながりは、KDDIの設備を利用できるところに理由があります。
KDDIの設備を利用することの出来たmineoとドコモ系回線を利用しているMVNOでは、利用しているシステムの機能に差があったことが原因です。
このシステム機能の差については、前述のとおりMVNOの方で努力をするとか改善をするといったことは出来ないのです。
そうなると、「MVNOの方でSIMカードを発行し、独自の体系を作り出せばよいのでは?」という疑問が浮かびます。
確かに、この方法であればMVNOが独自のシステムを用意することができ、サービスの自由度も今以上に容易に高めることが出来ます。
ユーザーとしてもその点に申し分ありませんが、その点でもつまづきます。独自のSIMカード発行のために必要な「HLR/HSS開放」についての交渉は、まだ始まったばかりなのです。
企業間での話なので、これが簡単に決着するとは思えません。
つまり、将来的にはMVNOが独自のSIMカード発行の流れを作れるかもしれませんが、それもいつになるかわからない上に、それがすぐにユーザーの利益になるかどうかも確定しません。
なので、現状で最も現実的な方法は「大手キャリアが新しい機能をMVNOに提供する」ということなのです。
既にドコモ系の回線を利用している格安SIMカードが自宅でのMNP手続きをできるようにした前例があることから、その方向性がユーザーに与えるメリットの大きさは既に誰もが知っていることです。
現状では、ドコモが提供しているMVNOのシステムはMVNOの保有するシステムとは連携することが出来ず、オペレーターが手作業によってdocomoのシステムへの打ち込み作業を行っています。
今後は、これを自動化できるような方針も発表されており、MVNOから大手キャリアへの要望が通ることへの見通しが明るいことの証拠にもなっています。
MVNOの利便性の向上は、そのままユーザーへの利益となります。MVNOのシステムがより高い利便性を確保すれば、契約や各種手続きに際して、よりユーザー向けのサービスを提供できるようになります。
それはつまり、ユーザーがMVNO関連の何らかの手続をしたい時に、より速やかに、より簡単に、より高品質なサービスを受けられるということになります。
もちろん、大手キャリアの利益との兼ね合いもありますので、MVNOの全ての要望が速やかに通るということはなく、多くは企業間の協議を重ねることで実現します。
時間はかかりますが、MVNOの利便性がさらに高まることには期待したいです。
MVNOからMVNOへのMNPについて
冒頭のあたりで「MVNOでも問題なくMNPを利用できる」という話をしましたが、それは今現在の話なのです。
実は、過去に「あるMNPのルート」において問題が発生したことがあるのです。
そもそものMVNOのMNPの経路としては、「異なるキャリア間」「同じキャリア間」「同じキャリア間(MVNEが同じ)」という3つの経路が考えられます。
例えば、ドコモ回線を利用しているDMM mobileとau回線を利用しているmineo間でのMNPは、ドコモの設備とauの設備、それぞれのMVNOが利用している設備を利用してのMNPとなります。
次に、同じドコモ系の格安SIMであるDMM mobileとOCNモバイル間でのMNPは、ドコモから転出してドコモに転入するという、少し不思議な感じではありますが普通にMNPは利用できます。
問題となるのは3つ目の「MVNEが同じ」というパターンです。
「MVNE」とは「Mobile Virtual Network Enable」の略称であり、MVNOに対する支援を行う会社のことを言います。
自社でも格安SIMを提供しながら、他社の格安SIMの提供もサポートしているという関係です。これが厄介だった時期があるのです。
例えば、IIJmioを提供している「IIJ」をMVNEとしている「DMM mobile」と「BB.exite」の間でMNPをする場合だと、「同じMVNEを利用しているMVNO同時のMNP」ということになります。
これが、回線の大本であるドコモから見ると、「同じIIJの回線どうしのMNP」にしか見えなくなるのです。回線が同じ会社である以上、これに関してのMNPは処理できなかったのです。
つまり、格安SIMから格安SIMへ乗り換えをする際には、MVNEが異なる業者を転出先に指定するしか方法がなかったのです。
ただし、現在ではこの問題は解消され、同じMVNEを持つMVNOどうしでもMNPを行うことができるようになっています。
先ほど「MVNOが独自にSIMカードを発行する交渉~」という話をしましたが、それが実現した際にはさらに何らかの問題が生じる可能性があります。
ただでさえ、大手キャリアから回線を借りるMVNOの乱立と、それがMVNEとなって別のMVNOに回線を提供している状態が存在していることで、複雑な関係となっています。
今後、システムの変更や新しいサービスの形が提供されることで、どのような問題が生じるかはわかりません。業者間の有機的な連携と、それに伴う速やかな対処を期待したいところです。
まとめ
格安SIMカードをが、これまでにMNPにおいてさまざまな問題点を抱えていたこと、それを解消するために今までサービスの変遷とそれに伴うシステムの変更を繰り返してきたことが分かったと思います。
しかし、解決済みの問題だけではなく、将来的にどのような問題が新しく生じるかはわかりません。
MVNOごとにサポートの体系も異なりますので、その点も考慮したいところです。システム上の何らかのトラブルが発生すると、それがユーザーにどのような不利益が生じるかわかりません。
数時間程度の問題であればまだしも、それが南一も継続するようなトラブルである場合、MVNOへの問い合わせと解決への取り組みの早さが重要な課題となります。
- MNP
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