たとえ夫婦・親子といった親密な間柄であっても、他人名義の不動産を勝手に売却することはできません。
家や土地の売却には、所有者の実印と印鑑証明が必要です。
実印や印鑑証明などの書類を揃えたとしても、買主・仲介業者・所有権移転登記を行う司法書士などが必ず所有者本人の意思を確認します。
そうはいっても諸事情によりどうしても所有者本人が売却を行えない状態になることがあります。
本人が遠方にいる、入院して身動きが取れない、認知症で意思の確認できない…etc。
高齢化社会の今、親がこのような状態になり子に不動産の売却を任せる例は増えてきています。
家族名義の不動産を売却するには?
家族が不動産を処分する手段は次のようになります。
- 不動産の名義を変更して売却する
- 代理人を立てて売却する
- 成年後見人制度を利用して売却する
それぞれの方法について注意しなければならない点があるので、順番に見ていきましょう。
家族名義の不動産を売却する場合の注意点①所有者名義の変更にはお金がかかる
名義変更は贈与とみなされる
例えば親の不動産を処分して子に援助したい場合、あらかじめ名義を変更した上で子が売却する方法があります。
ただし、不動産の名義を変更する際は家族間であっても「ただ」で右から左に受け渡せるわけではありません。
金銭を伴わない授受の場合は「贈与」となり、相応の贈与税が課されます。
家族間で金銭の授受を行い「売買」の形をとったとしても、相場とかけ離れた安い金額であると「贈与」と見なされます。
贈与税は最低でも10%、1,000万円超の資産贈与では50%もの税金がかかります。
所有者移転登記には登録免許税がかかる
さらに名義変更のための所有者移転登記には、一定の登録免許税が課されます。
土地の所有権の移転登記、建物の所有権移転登記は贈与・売買の場合ともに不動産価額の2%が標準の課税率です。
住宅用の不動産ならば軽減税率が採用され、負担が軽くなるな場合があります。
家族名義の不動産を売却する場合の注意点②代理で売るには委任状が必要
委任状は詳しく記載する
不動産の名義を変更せずに売却したい場合、所有者の代理人となって売却の手続きを進めます。
その場合、所有者が代理人に実務を委任しているという証明として委任状が必要です。
委任状に決まったフォーマットはありませんが、トラブルを避けるため内容を詳細に記載することが望まれます。
【例】
- 日付
- 委任者の住所・氏名・押印
- 受任者の住所・氏名
- 受任者を代理人と定める旨
- 該当する不動産の売買契約の権限
- 所有権の移転登記の権限
- 売買代金受領の権限
- 該当する不動産の概要
所有者と良く話し合い委任状を作成します。
売却希望価格があればそれを記載しておくのも良いでしょう。
売却代金は所有者のもの
代理人は委任状の内容にある法律行為の事務を行うだけであり、不動産に対する何らかの権利を得るわけでありません。
売却代金は全て所有者のものになります。
売却した代金を親から子に譲りたいといった場合には、やはり贈与税がかかります。
家族名義の不動産を売却する場合の注意点③贈与してから売るか、売ってから贈与するか検討する
贈与を目的として売却する場合の注意点
家族への援助のために不動産を処分する場合、「不動産を贈与し名義変更してから売却する」「売却してから現金を贈与する」の2つの方法があります。
どちらが得になるかは、不動産の価値や売却額によってケースバイケースです。
下にそれぞれ必要な税の負担を整理しておきます。
贈与してから売却する場合
- 親から子への名義変更で登録免許税をどちらかが負担
- 子が不動産価値に応じた贈与税を負担
- 子が売却で得た利益に応じた譲渡所得税(所得税+住民税)を負担
売却して現金を贈与する場合
- 親が売却で得た利益に応じて譲渡所得税(所得税+住民税)を負担
- 子が贈与金額に応じて贈与税を負担
家族間の贈与には非課税制度も
家族間の贈与には目的によって一定の額が非課税となる制度もあります。
合わせて覚えておきましょう。
住宅取得等資金の贈与
平成31年6月30日までに祖父母や両親が20歳以上の子や孫に住宅の取得や増改築資金を贈与する場合、取得時期や消費税率・住宅の省エネ能力に応じて300万円から3000万円までが非課税
教育資金の一括贈与
平成31年3月31日までに祖父母や両親が30歳未満の子や孫に学費、学習塾や習い事、学習のための通学費や留学費などを贈与する場合、1500万円まで非課税
結婚、子育て資金の一括贈与
平成31年3月31日までに祖父母や両親が20歳から49歳の子供や孫に一括贈与した場合、結婚資金は300万円、子育て資金は1000万円まで非課税
家族名義の不動産を売却する場合の注意点④意思を示せない状態なら成年後見人制度を利用する
名義変更も代理人を立てることもできないケース
意識不明や認知症などで本人の意思表示が困難な場合は、名義変更することも代理人を立てることもできません。
勝手に委任状を作成して売却を行った場合、買主は契約を取り消すことができますし、損害賠償を請求される可能性もあります。
いずれ不動産を相続するはずであった親族間でトラブルになることも想像できます。
有印私文書偽造や詐欺罪で告発されるかもしれません。
本人の同意がない不動産の売却は、たとえ家族のものであっても立派な犯罪です。
成年後見人は不動産を処分できる
たとえば親が認知症で介護施設に入所するため、不動産を売却してその費用に充てたいという事情があるときはどうすればよいでしょうか。
この場合、成年後見人制度を利用することで不動産の売却が可能になります。
成年後見制度とは、判断力が十分でない成年者の財産管理と身上監護を行う人物を、家庭裁判所を通して選任する制度です。
成年後見になれるのは親族をはじめ弁護士、司法書士、社会福祉士などです。
居住用不動産の処分には裁判所の許可が必要
成年後見人制度は、判断能力の十分でない被後見人を保護するための制度です。
成年後見人は被後見人の財産に対して何らかの権利を得るわけではありません。
不動産を売却して現金に換えるのも、あくまでも被後見人に必要な医療費や介護費用などの費用を用立てる場合に限ります。
居住用不動産の売却には別途家庭裁判所の許可が必要です。
まとめ
不動産の売却は所有者本人が行うのが基本です。
家族が代わって売却しようという場合は、なにからの目的や事情がある場合がほとんどだと思います。
売却する目的を明らかにし、それぞれの目的に合わせて
- 名義を変更する
- 代理人を立てる
- 成年後見人制度を利用する
の3つの方法を検討しましょう。
売却によって家族に資金援助したい場合は贈与税に注意が必要です。
場合によっては非課税となるものもあるので、ここでも資金が必要となる目的を明らかにしておきましょう。
家族間だからこそ、信頼関係があるとついつい口約束で売却や贈与を約束してしまうこともあるでしょう。しかし、売却価格や税の問題、のちのちの相続など何がトラブルの種になる可能性もないとはいえません。
どのような方法を取るとしても家族間で良く話し合い、勝手に手続きを進めずに、必要なことは書面にして残しておくことをおすすめします。