不動産売却で売却益がでた場合、譲渡所得税を支払う必要がありますが、赤字になり、譲渡損失が発生した場合にはどうなるのでしょうか?
譲渡所得の計算方法や取得費、建物の減価償却について等、詳しく解説していきます。
不動産売却で利益が出ると譲渡所得税を支払う必要がある
不動産売却で利益が出ると、譲渡所得税を支払う必要があります。
譲渡所得税の計算式は以下の通りです。
譲渡所得=収入金額—(取得費+譲渡費用)—特別控除
収入金額
売却金額は、土地や建物を売却した価格に、固定資産税や都市計画税を加算した価格となります。
固定資産税や都市計画税は、毎年1月1日時点での所有者、つまり売主に1年分の納税通知書が届きますが、売却日以前を売主、売却日以降を買主の負担とするのが一般的です。
例えば、7月1日に決済した場合には6月30日までの分を売主の負担、7月1日以降の分を買主の負担とし、決済日に買主から売主に支払われることになります。
取得費
取得費は、売却不動産を取得した時にかかった費用で、以下の2つの方法を選ぶことができます。
- 概算法
- 実額法
概算法
概算法は、収入価格の5%を取得費として算出することができる方法で、売却不動産を取得した時の契約書等の書類が見つからない場合にも取得費を計上できます。
実額法
実額法は、不動産の購入代金や仲介手数料、購入した後のリフォーム費用等を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額を計上できる方法です。
売却不動産の建物取得費用×0.9×償却率×経過年数
償却率は事業用か居住用かで異なりますが、マイホームやセカンドハウスなど居住用不動産の償却率は以下の通りです。
耐用年数 | 償却率 | |
木造 | 33年 |
0.031 |
軽量鉄骨造 | 40年 |
0.025 |
RC造 | 70年 |
0.015 |
例えば、築20年、取得費用1,000万円の木造建物の場合、1,000万円×0.9×0.031×20年=558万円を、売却不動産を取得した時の価格から差しいひいた金額分計上することができます。
なお、取得費には不動産の購入代金や仲介手数料、購入した後のリフォーム費用等を合計した金額以外にも以下のような項目を計上することができます。(ただし、事業所得などの必要経費に参入されたものは含まれません)
- 登録免許税や不動産取得税、印紙税
- 借主がいる土地や建物を購入する時に、借主を立ち退かせるために支払った立退料
- 土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
- 測量費用
- 所有権の取得に際に要した訴訟費用
- 建物付の土地を購入して、おおむね1年以内に建物を取り壊すなど当初から土地の利用が目的と認められる場合の建物購入費用や取壊し費用
- 土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子の内、その土地や建物を実際に使用する日までの期間に対応する部分の利子
- 既に売買契約が締結されている土地などの契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支払う違約金
譲渡費用
売却費用は、不動産を売却した時にかかった費用のことで、以下のような項目があります。
- 仲介手数料
- 登記、測量費用
- 印紙税で売主が負担したもの
- 貸家を売るために借家人に家屋を明け渡してもらう時に支払う立退料
- 土地などを売るためにその上の建物を取り壊した時の取壊し費用とその建物の損失額
- 既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売る時に売主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
特別控除
マイホームを売却する場合には、一定の要件を満たすことで特別控除を受けることができます。
不動産を売却して利益が出た場合の特例は、以下の3つがあります。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用不動産の買換え特例
なお、これらの特別控除を受けるためには、売却不動産がマイホームである必要があり、マイホームの定義は以下の通りです。
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。また以前に住んでいた家屋や敷地を売却する場合には住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すること。
- 家屋を取り壊した場合は、家屋を取り壊した日から1年以内に売却契約が締結され、かつ①の要件を満たしており、また家屋を取り壊してから売却契約を締結するまでその敷地を駐車場等にその他の用に利用していないこと。
- 転勤等で単身赴任の場合には配偶者等が居住している家屋を売却する時。
3,000万円特別控除
3,000万円特別控除は、譲渡所得を計算した最後に、3,000万円差し引くことができる特例です。
一般的なマイホームであれば3,000万円の特別控除を受けることができれば譲渡所得税を0円にできることも珍しくありません。
マイホームを売却する場合は、最初に上記のマイホームの定義を満たしているかどうかを確認して、3,000万円特別控除が受けられるかどうかを確認しておきましょう。
10年超軽減税率の特例
所有期間が10年を超えるマイホームを売却する場合には譲渡所得が6,000万円以下の部分の税率を14.21%の軽減税率の適用を受けられるという特例です。
10年超軽減税率の特例は3,000万円特別控除の特例との併用が可能です。
特定居住用財産の買換え特例
特定居住用財産の買換え特例は所有期間が10年超のマイホームを買換える際に利用できる特例で、売却代金より新しく取得した不動産の代金が多かった場合に、その売却益を繰り延べることができ、売却代金より新しく取得した不動産の代金が低かった時に買い換え代金に充当した額に相当する額を繰り延べられる特例です。
特例居住用不動産の買換え特例は、3,000万円特別控除の特例や所有期間10年超の軽減税率との併用はできないため、どちらがお得になるか比較する必要があります。
また、これらの特例は住宅ローン控除との併用はできません。
譲渡所得税の税率
上記までの計算式で算出した譲渡所得に税率をかけることで譲渡所得税を算出することができます。
不動産の譲渡所得税の税率は、所有期間5年超を長期譲渡所得、5年以下を短期譲渡所得として税率が異なります。
短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
39.63% |
20.315% |
不動産売却で赤字になった場合は不動産の譲渡所得税の中で差し引きできる
一方、不動産を売却した結果、赤字となった場合には、平成15年12月31日までであれば、給与所得や不動産所得など他の所得と損益通算できていましたが、平成16年以降損益通算はできなくなりました。
ただし、不動産の譲渡益と譲渡損との中で差し引きすることができます。
つまり、同じ年に不動産売却による利益があった場合に、他の不動産を売却して出た損失分を差し引きできるというわけです。
とはいえ、一般の人にとっては同じ年に2つの不動産を売却するようなことはあまり考えられませんよね。
そこで、売却した不動産がマイホームであった場合に限り、一定の要件を満たすことで不動産の譲渡損失を他の所得と損益通算できる特例があります。
不動産売却で赤字になった場合損益通算できる特例
マイホームを売却して赤字になった場合損益通算できる特例は、売却して買換える場合と、買換えない場合とで2つの特例が用意されています。
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除
なお、どちらの特例もマイホーム売却の3,000万円特別控除のマイホームの定義を満たした上で、以下の項目を満たす必要があります。
- 売却する相手が売主の配偶者や直系尊属、生計を一にする親族、同族会社でないこと。
- 繰越控除する年の所得金額が3,000万円以下であること
- 平成29年12月31日までに売却したもの
- 売却する年の1月1日時点で所有期間が5年超であること。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除は、マイホームを売却して新しく買換え資産を買う場合に譲渡損失が発生した場合、その年に給与所得や不動産
所得などその他の所得と損益通算することができ、また損益通算しきれない場合にはその年以降3年間繰越控除できる特例です。
この特例を受けるためには、買換え資産が以下の要件を満たしている必要があります。
- 特例を適用する年の年末に、買換え資産について償還期間10年以上の住宅ローン残高があること
- 買換え資産の床面積が50㎡以上であること
なお、買換え資産購入の際に住宅ローンを組む場合にはローン控除と併用することができます。
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除は、マイホームを売却して譲渡損失が発生した場合、買換え資産を購入せずとも、一定の要件を満たすことで他の所得との損益通算および、その後3年間繰越控除できる制度です。
この特例を受けるためには、売却不動産に一定の住宅ローン残高がある必要があり、損益通算できる額は、譲渡損失の額か、住宅ローン残高から売却価格を控除した残額の中小さい額となります。
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居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除 |
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および損失の繰越控除 |
買換え |
一定の要件を満たす物件を買換え必要 |
買換えなくて良い |
売却資産に関する住宅ローン |
なくても良い |
一定のローン残高が必要 |
損益通算できる額 |
譲渡損失の額 |
譲渡損失の額か、住宅ローン残高から売却対価を控除した額の中、小さい方 |
まとめ
不動産売却で赤字になった場合、原則として他の所得との損益通算はできませんが、マイホームの売却での場合一定の要件を満たすことで他の所得との損益通算が可能となります。
それぞれ、満たす必要のある要件を確認して少しでもお得になる方法を選ぶと良いでしょう。