格安SIMを考える上で重要な意味を持つ専門用語「HLR/HSS」とは何か?

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「格安SIMに乗り換えようかな?」「格安SIMについて、もっと深く知りたい」と言った目的でネット上の情報を集めていると、関連する単語として「HLR/HSS」という単語を見かける機会も出てくるのではないかと思います。

実は単純な専門用語としてではなく、実際に格安SIMを利用するにあたっては大きな意味を持つ単語でもあります。

 

つまり、これに関わることは「格安SIMのユーザーに何らかの影響を及ぼす可能性がある」ということです。

では、HLR/HSSとは何なのか、これがどうなるとユーザーにどのような影響が及ぶのかということについて解説してきます。

「HLR/HSS」とは

まず、単語としての「HLR/HSSの意味」について解説していきます。

HLR/HSSとは「Home Location Register/Home Subscriber Server」という言葉の略称であり、意味のわかりやすい言葉でまとめると「加入者管理装置」「加入者管理データベース」のような言葉になります。

利用者の契約内容や現在位置などが記された「原簿」

「HLR/HSS」は、簡単な意味としては「加入者の情報をまとめるための装置・システム」のような存在です。

とは言っても、「信用情報機関」のような細かい情報が記載されているとかではありません。有り体に言えば、「SIMカードに必要な情報のデータベース」と言うとわかりやすいでしょうか?

 

とは言え、これではHLR/HSSの重要性についてはあまりピンとこないのではないかと思います。

そこで「固定電話」と比較しながら解説してみます。固定電話は自宅や施設などに文字通り「固定」するので、「有線接続」で通信の接続先は常に同じになります。

もちろん、最終的な通信先は電話番号ごとに異なりますが、中継される通信設備に識別番号などが登録されていれば、それで通信サービスを運用していくことができます。

 

しかし、モバイル通信の場合はそうもいきません。

電波を中継する施設の仕組みについて詳しい情報は割愛しますが、例えば自宅近辺であれば基地局Aを、勤務先は基地局Bが、それぞれのエリアを担当していると仮定します。

この状態で基地局AやBに個別の識別番号が登録されているとしても、出張や旅行などで他の場所にある基地局CやDを使わなければならなくなった場合、基地局AやBに情報が登録されていてもCやDを使うことは出来ません。

つまり、モバイル通信は持ち歩いて使用することを前提としているので、通信を行う場所によって基地局その他の通信設備の利用状況が変化します。

有り体に言えば「いつ、どこで、どこの設備と接続しなければならないか」がわからないので、情報の登録について個別の通信設備に依存することが出来ないのです。

 

そこで必要になるのが、HLR/HSSの存在です。SIMカードが通信を行う場合、その時々の条件に適した通信設備に接続します。

SIMカードを認識した通信設備は、SIMカードに登録されている情報を読み取り、HLR/HSSに対して照合を求めます。

これによって「そのSIMカードの通信を媒介してもよいか」ということだけではなく、許可されている場合は「どういったサービスなら提供してもよいのか」という情報も引き出します。

要するに、イメージとしては「系列店舗で使える会員カード」のようなもので、どこで、どの通信設備と接続しようともユーザーの情報を引き出して通信を中継するのです。

 

この仕組は、「モバイルからモバイルへの通信」において特に重要な意味を持ちます。

例えば、基地局Aが管轄するエリアに居るαさんと、基地局Bが管轄するエリアに居るβさんが通信を行うとします。

αさんがβさんにメールを送信するという状況で話を進めてみましょう。

無線接続なので通信設備を媒介としてデータの送受信を行いますが、ここで問題となるのは「αさんのいる基地局Aから、どの基地局へとデータを送信すれば良いのか?」ということです。

βさんは基地局Bの近くにいますが、遠方にいるαさんや基地局Aはその情報を知りません。

 

そこで、HLR/HSSは「SIMカードの現在地」の情報をリアルタイムに更新するという役割を果たします。

要するに「今、どこにいるのか」という情報を、ある程度の範囲ですが把握することができるということです。

もう少し具体的に解説しますと、例えばβさんが基地局Bの範囲外の基地局Cの管轄するエリアに移動した場合、「βさんは基地局Cのエリアに居る」という情報に更新するのです。

これによって、αさんがメールを送信しようとしているときに、基地局Aからどの基地局に向けてデータを送信すればよいのかを把握することができるのです。

 

その他にもいくつかの役割を担っているのですが、要するに「スマートフォンの通信のために欠かせない存在である」ということを理解しておきましょう。

もし、このシステムが何らかの理由で使えなくなってしまえば、当分の間はスマートフォンでのモバイル通信を満足に利用することはできなくなります。

MVNOが開放を求める

さて、HLR/HSSがスマートフォンの通信において重要な役割を担っているということは理解できたかと思います。

携帯電話が広く普及した頃からこうしたシステムが利用されているはずですが、HLR/HSSという単語が注目され始めたのはここ最近の話です。なぜ、最近になって話題になっているのでしょうか?

 

実は、HLR/HSSが注目されている理由は「MVNOが開放を求めている」ことに由来します。

そもそも、MVNOが格安SIMを提供している背景として、大手キャリアの基地局や電波を借りて、それをユーザーに提供しているという部分があります。

つまり、HLR/HSSに関しても大手キャリアが運用し、MVNOはそれを利用させてもらっているという間柄になります。

 

MVNOがHLR/HSSを独自に保有して運用していないことは、それ自体はデメリットにはなりません。

しかし、もしMVNOが大手キャリアから借りずに独自にHLR/HSSを保有することができれば、ユーザーに取ってメリットが発生する結果となる可能性があるのです。

MVNOがHLR/HSSの開放を要求しているのは、そこに理由があります。

MVNOが「HLR/HSS」を持つと何ができるのか?

HLR/HSSが大手キャリアの手中にあろうとMVNOが手に入れようとも、ユーザーにとっては他人事のようにしか見えませんね。

ですが、もしMVNOがHLR/HSSを持つことになれば、ユーザーにとっても他人事ではない状況になるのです。

MVNOがHLR/HSSを自ら運用することで、できるようになること

結論から言えば、MVNOが独自にHLR/HSSを保有および運用できるようになることで、さまざまな「独自のサービス」を打ち出すことができるようになります。

既に現状でも「楽天モバイル」のように自社サービスを盛り込んでいるMVNOもありますが、HLR/HSSを保有することで「通信サービス自体の付加価値」を高めることができるようになります。

 

前述の「楽天モバイル」であれば、自社サービスの「楽天スーパーポイント」を盛り込むことでMVNOとしての価値を高めていますが、提供する通信サービスの中身は他のMVNOと同じ、docomo回線の品質そのものです。

(ほとんどのMVNOはdocomo回線を使用している、いわゆる「docomo系の格安SIM」)

 

しかし、HLR/HSSを保有することができれば、通信の品質についてアプローチをかけることができるのです。その理由は「SIMカードの独自発行」です。

 

HLR/HSSが大手キャリアの手中に有る限り、MVNOは自社でSIMカードを発行することが出来ません。

MVNOが提供しているSIMカードは、大手キャリアに発行してもらっているSIMカードをユーザーに提供しています。

これは、SIMカードの調達に多少の手間がかかるというだけではなく、「SIMカードに関わるサービスの提供」にも影響します。

簡単に言えば、SIMカードを独自に発行できるようになることで、MVNOが独自の通信サービスを打ち出して他社と競争することができるようになるのです。

 

もう少し専門的に解説してみると、まずHLR/HSSは顧客情報の管理を行うためのシステムです。

これをMVNOが独自に保有して運用することにより、顧客管理においてSIMカードに関連する管理番号を独自に管理することができます。

これにより、大手キャリアに依存すること無く、SIMカードを自社で独自に調達することができるようになります。

 

SIMカードを独自発行することができるようになることで、SIMカードやそれに関わる機能・サービスをMVNOで独自に設定することができます。

従来は、発行する大手キャリアが提供しているサービス以外をSIMカードに付加することは出来ませんでしたが、MVNOが発行できるようになれば「技術的に可能な機能」に関しては好きに付加させることができるのです。

 

例えば、その具体例としてよく取り上げられるのは「海外ローミング」です。海外ローミングとは、海外旅行中に渡航先の通信会社の回線を使うことで通話を行えるようにする機能です。

従来はSIMカードを発行する大手キャリアが提携している海外の通信会社の回線のみ使用することが出来ていましたが、HLR/HSSが開放されることで各MVNOが独自に海外の通信会社と契約することができ、大手キャリアが提供している海外ローミングに比べて料金を安くしたり、利便性を高めることができる可能性があります。

 

また、料金プランも今以上に柔軟性に富んだラインナップを用意することが可能になります。

現状では、ある程度のラインナップは用意できても、パケット量の違いや自社サービスとの併用による割引など、ある程度限られた範囲でしか提供されていません。

しかし、HLR/HSSの開放に伴ってさまざまなサービスを盛り込んだり組み合わせたりすることで、例えば大手キャリアが提供しているような「かけ放題」のようなプランを用意したり、割引に関してももっと自由度の高いプランが提供されることになるでしょう。

 

他にも、「SIMカードの挿入だけでAPNを自動設定することができる」「1枚のSIMカードでdocomo系・au系の回線を選ぶことができる」といった機能についても議論されています。

一部、サービスの提供のために制度の改正や他社との提携も必要になることもありますが、MVNOごとにオリジナルのサービスを提供できるようになることで格安SIMはより独自色による差別化が進み、ユーザーは今以上に自分向けのMVNO/プランを選択することができるようになります。

注意点

しかし、HLR/HSSの開放はメリットばかり生み出すわけではありません。大手キャリア側はさまざまな問題点を懸念していますが、簡単に言えば「HLR/HSSを開放する総合的なメリットはあるのか?」ということです。

 

HLR/HSSを開放し、MVNOが独自に運用することによるメリットについては既に説明しています。

しかし、その反面で「保守」や「運用」の面でのトラブルが懸念されています。MVNOがHLR/HSSを運用するようになり、サービスの質が向上したとしても、やはりシステムのトラブルや設備の故障などはつきものです。

大手キャリアは通信事業の老舗ばかりですから、その点については手慣れたものです。

しかし、MVNOの場合は通信事業に関してはそうでもありません。、トラブルが発生した際の復旧の速度も心配ですし、規模の小さい企業の場合は設備の品質にも不安があります。

 

また、トラブルが発生した際の規模の大きさも問題です。

MVNOが運用するHLR/HSSにトラブルが起きた際に、そのMVNOのユーザーだけではなく、大手キャリアの回線にも悪影響を及ぼすことで想像以上の数のユーザーがトラブルの影響を受けてしまうことになります。

大手キャリアが運営している設備であれば即座に状況を判断して対策を講じることが出来ますが、大手キャリアはMVNOが運用することになるHLR/HSSのトラブルについては感知することは難しいのです。

もちろん、MVNOから何らかの打診はあると思いますが、どうしても後手に回ることは否めません。

 

加えて、先ほども説明しましたがHLR/HSSは顧客情報の管理を行うシステムです。

悪い言い方をすれば「所詮はシステム」なのです。HLR/HSSをMVNOが独自に運用することになるとして、それが即座にサービスの品質向上・低価格化につながるとも限りません。

技術の画期的な向上や新しい設備の配備などを行うのであればユーザーが受けるメリットも即座に波及することになるかと思いますが、HLR/HSSの開放の場合はMVNOごとに関連企業との提携の交渉や設備投資などに時間がかかることになります。

 

このように、大手キャリアとしても無条件にHLR/HSSを開放するよなことは出来ないのです。

特に「保守」の面での懸念は大きく、システムトラブルによる、格安SIMを利用していない無関係なユーザーにまで悪影響が及ぶことは避けなければなりません。

HLR/HSSによるメリットや現実性が、そのリスクを無視してまで認めて手放しに喜べるようなものではないというのが、HLR/HSS開放に対する大手キャリアの心情なのです。

「HLR/HSS」開放の行方は?

とは言え、HLR/HSS開放が「机上の空論」ではないということは、理解しておく必要があります。

実際に、大手キャリアが懸念する「設備・システムのトラブル」については課題が多いですが、大手キャリアしかHLR/HSSを運用することが出来ないというはずはありません。

 

実際問題として、大手キャリアとMVNOの間ではHLR/HSSに関する交渉は行われ続けています。

まだ開放に関する現実的な部分までは議論が進んでいないような状況ですが、HLR/HSS開放に向けてMVNOの努力は継続し、大手キャリアも一部その努力を認めているという状況といえばわかりやすいでしょうか?

 

要するに「まだまだ、これから」ということです。問題は山積みではありますが、理論上それを解決する手段が無いというわけではありません。

大手キャリアと同等、もしくはそれ以上の技術力や人的資源、システム運用のノウハウがあれば不可能なことではないはずです。

それが現状で大きな問題でもあるのですが、ノウハウの部分に関しては大手キャリアからのサポートも不可能ではないでしょうし、企業間の協力体制などを考慮すれば決して遠い未来の話になるということもありません。

 

HLR/HSS開放に関して、ユーザーとして協力できる部分は極めて限定的です。

ほとんど見守ることしか出来ないという歯痒さはありますが、HLR/HSS開放に向けた今後の交渉と進展に期待することにしましょう。

なお、HLR/HSS開放に関する懸念等については別記事でも解説していますので、気になる方はそちらの方もご覧になってください。

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