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世界ではどんな格安SIMが展開されているの?欧州や米国の市場では?

 

目次

日本を離れて世界のMVNO市場を見てみよう!

スマートフォンを利用するにあたっては、継続的な費用を削減することができる「格安SIM」が人気を集めています。

乗り換えにあたっては不便に感じたり面倒に感じたりすることもあるかもしれませんが、うまく利用することができればスマートフォンをより便利な形で生活に組み入れることができます。

さて、格安SIMを提供しているMVNOですが、これは日本だけに固有の企業ではありません。スマートフォンは世界中に普及していますが、同様にMVNOも世界中に存在していることになります。

では、日本以外の国のMVNOは、どのような事情の中で運営しているのでしょうか。海外に興味が無い人でも、海外のMVNOについて知ることで日本のMVNOの今後を知るキッカケになるかもしれませんよ?

 

MVNOの本場「ヨーロッパ」

まずは、業界では「MVNOの本場」と言われている「ヨーロッパ」について解説していきます。

そもそも通信事業は、自由競争だけではなかなか発展できない

まず、通信事業というものは「自由競争だけ」では発展できないという側面もあります。これは、通信産業が「ネットワークを形成する産業」であることに起因します。

例えば、ある端末から別の端末に電話をかけることや、データを送信できるという部分があります。

通話やデータの送受信を行う端末同士が別のキャリアを利用しているとしても可能な限り通話やデータの送受信を行えるような仕組みづくりが重要なのです。

同じ業種の企業同士は競争をして、それは結果的に消費者に利益に繋がることが多いです。

しかし、通信事業の場合は相互に通話やデータ通信をきちんと利用することができるという保証が必要であり、そのための「規格」や「規則」といった一定のルールが重要なのです。

特にヨーロッパの場合は、他の地域や国に比べてその部分が重視されている傾向にあります。

要するに、強力な規制当局が強く通信事業を引っ張っていくことによって、他の地域よりもMVNOの普及が進んでいるのだと言えます。

MVNOに必要な仕組みづくりが、他の国よりもしっかりとしていりため、単純な企業間競争だけでは発展できないMVNOが発展することができたのです。

「Bill Shock」の問題

もう一つ、理由があります。ヨーロッパは国同士の国境が開かれていて、パスポート無しでも国境を超えることが可能です。

それにより、他の地域よりも「Bill Shock」の問題が浮上したのです。これは日本での俗称である「パケ死」のことであり、正確には「通信料が予想以上に高額になり、支払不能に陥ること」を意味します。

別の記事でも解説していますが、国外でも同じSIMカードがそのまま使える「国際ローミング」は、通信料が高額になりやすいのです。

つまり、簡単に国境を超えられる、つまり日本のような島国とは違って自動車で簡単に国をまたぐことができるヨーロッパにおいて、知らないうちに国際ローミングの使用とそれに伴う高額な通信料が発生してしまい、Bill Shockに陥ってしまうのです。

多国籍のMVNOだけではなく、多様なMVNOが存在している

Boll Shock対策として、ヨーロッパでは「MVNOの多国籍化」が進みました。

「HLR/HSS」を自ら運用することによって、複数の国の携帯電話ネットワークをローカルの料金、つまり国際ローミングの料金ではない自国の料金として運用することが可能になっています。

また、MVNO先進地域であるヨーロッパでは、この「多国籍化」だけでなく、さまざまなMVNOが存在しています。

例えば、トルコのサッカーリーグの「フェネルバフチェ」は、クラブのファン向けのMVNOとして「Fenercell」を運営しています。

このMVNOは、所属しているサッカー選手によるファンサービスを、MVNOの加入者への付加価値として強みとしています。

他にも、郵便局によるMVNOへの参入の動きも数年前から見られています。郵便局ならではのノウハウとサービスを利用して、独自性の高いさまざまなサービスを打ち出しています。

日本でも自社サービスを強みとしたMVNOはそれなりに見られますが(楽天モバイル等)、それとは一線を画す独自性を感じます。

そんな欧州のMVNOも、現在は曲がり角にきている

ですが、そんなヨーロッパのMVNOも、実はちょっとした曲がり角に位置していると言えなくもないのです。

ヨーロッパでは、イギリスを始めとして「MVNOは規制当局に保護されるべきではない」という解釈が広まりつつあります。

加えて、EUは2017年6月までに「ヨーロッパ域内での海外ローミング料金を、段階的にゼロにする」という決議を可決させています。

つまりこれは、ヨーロッパの多国籍MVNOのビジネスの根幹に関わることなのです。

ヨーロッパは、MVNOの先進地域です。他の地域よりも発展が早かっただけに、問題への衝突も他の地域よりも早いのだと言えます。

今後、多国籍化したMVNOを中心として、ヨーロッパのMVNOは大きく様変わりする可能性があります。

ニッチな市場を求めて「アメリカ」

次は、「アメリカ」のMVNO事情について解説していきます。

MNOと価格面での差別化が困難という市場環境

アメリカもヨーロッパ同様に大きな市場であり、数多くのMVNOが存在しています。しかし、ヨーロッパと全く同じ系譜をたどるのかといえば、その限りではありません。

アメリカでは、MVNOに関して「自由な経済活動の結果」として存在するべきなのだという風潮があり、ヨーロッパのように強力な規制当局があるというわけではありません。

そのため、アメリカでは交渉力のあるMNOからネットワークを安い値段で調達するということが難しく、価格面においてMNOとの差別化が難しいという側面があります。

そのため、米国のMVNOは利用者とのつながりを重視している

価格面での差別化が難しいアメリカのMVNOは、「利用者とのつながり」を重視する傾向にあります。利用者との強いつながりを強みとして、MNOとの競争の動力源とするのです。

アメリカでは、地域や人種、言語やライフスタイルなどの「利用者の属性」によって、ニッチな市場というものを想定しています。

その狭い市場の中でブランドとしての価値や、利用者とのつながりを利用して新規の利用者を広げていくという戦略が基本となります。

例えば、貧困世帯におけるライフラインとしての通信事業としての地位を持つ「Assist Wireless」や、セクシャル・マイノリティ向けのMVNOである「Pride Wireless」等が挙げられます。

ヨーロッパとは違った意味で、日本人の視点からは驚くような内容となっています。ですが、「常に市場に目を光らせる」というビジネス構造は、日本のMVNOも見習うべき姿勢の一つであると言えます。

MVNO各社は、これからも非常に苦しい戦いが続く

しかし、アメリカの4つのMNOとの料金面での差別化が難しいという点は否めません。

この点は、アメリカのMVNOにとって「非常に苦しい戦いが続く」ということを意味しています。

移動通信市場は、急速に変化を続ける存在です。変化を続ける市場に目を光らせ続け、市場における需要をどれだけ自社のサービスで満たすことができるのかという点で、MVNOは他社との競争をしていかなければなりません。

日本のように「MVNOは格安SIMでメリットが有る」ということがなく、純粋にサービスの質で勝負をしなければなりません。

価格面でもそれなりに競争は発生しますが、ニッチな市場においてどれだけユーザーの心を掴んでいけるのかということが、今後のアメリカのMVNOにとって重要な事なのです。

格安SIM市場の幕開け「アジア」

最後は「アジア」の市場について解説していきます。

日本のみならずアジア各国で格安SIMの幕が本格的に開きつつある

アジアにおいては、日本だけでなくさまざまな国でMVNOが本格的にスタートしつつあります。

他の地域に比べると少し遅れ気味ではあるのですが、中国では2014年にMVNOの予備ライセンスが発行されて、事業化がスタートしています。

また、マレーシアやタイといった国々でもMVNOの参入が相次いでいます。

新興国においては、MNOによるエリアの拡大や通信規格の高度化、他にも安定的な通信環境の確保といった内容が優先事項となるのですがいくつかの国ではその段階を乗り越えてMVNOの市場導入によって発生する競争を促すという動きが見られています。

とはいえ、MVNOは各国で課題にぶつかっている

しかし、アジアにおけるMVNOは各国で何らかの課題にぶつかっているとも言えます。

例えば、中国では予備ライセンスを与えられた事業者42社のうち、39社が本ライセンスに切り替えられているという事実があります。

しかしその反面、上位6社が市場の9割近くを独占している状況にあるという、決して「全ての本ライセンス獲得事業者が順調に成長しているというわけではない」という事実が浮き彫りになっています。

加えて、事業開始にこぎつけたMVNOも、国営企業であるMNOとの協議は難航しており、ネットワークの値段が高止まりによる収益改善の遅れといった問題も生じています。

こうした構造的な問題があるという点も、決して無視できるものではありません。

他の国々では、例えばシンガポールを除いた東南アジアの国々では、農村地帯の人口比率が高いため、MVNOの事業展開の方向性が問題となります。

プロモーションや広告費用などが、企業の収益に対して大きなマイナスとなることが懸念されています。

このように、アジアにおけるMVNO事情は、ヨーロッパやアメリカに比べてまだまだ未開な部分が多いです。

しかし、将来的な市場に対する期待は、他の地域に引けを取りません。

具体的な解決策の一つとしては、例えば「アジアのMVNOで課題を共有し、協力してその解決に臨む」ということも考えられます。

課題は多いとはいえ、決して将来性がないというわけではありません。

では日本はどうしていくのか?各国のMVNOの課題から考える

世界中では、その地域(市場)に適した形でMVNOが事業を展開しており、同時に地域に適した問題が生じているということがわかると思います。

地域は違えども、世界各国のMVNOが抱えている問題や今後の展望は、日本のMVNOにとっても決して無視できるようなものではなく、時に見習ったり、時に問題解決のための足がかりとしても活用するべきなのです。

日本のMVNOは、心理的に総務省に対して依存しているという傾向が見られます。

しかし、ヨーロッパのMVNOが規制当局からの巣離れを強制されているように、また、アメリカではMVNOが市場を熟知してそれに適した事業戦略を展開しているように、今後は市場をよく観察し、日々変動している通信市場に適したサービスの提供を必要としています。

日本においても、格安SIMを利用するユーザーが増えつつありますが、世界各国の例を見ても日本のMVNO市場はまだまだ成熟しきっているとは言えません。

東南アジアほど遅れているということでもありませんが、これからまだまだ市場は変化し、MVNO事情もそれに即して変化していくと予想されます。

日本のMVNOは、世界各国の事情や前例を参考にしつつ、独自の経営戦略を打ち立てて行かなければなりません。

市場のニーズに即したものを適正な価格で提供できるようになれば、それはユーザーの利益につながります。

既に、日本国内でも諸外国に見られるような「独自のサービス」を提供しているMVNOもいくつか存在しています。それが今後、どのように変化していくのかについても注意深く観察していきたいものです。