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贈与税の非課税制度、祖父母などからの教育資金一括贈与とは?

 

贈与税の非課税制度の一つである「教育資金の一括贈与」の制度が人気を集めています。

この制度は平成25年4月にスタートしました。

孫やひ孫に1500万円までの教育資金を非課税で贈与できるということで、人気があり多くの申し込みがあったようですが、仕組みを理解しないまま贈与してしまい、後悔している人もいるようです。

この「教育資金の一括贈与」は、暦年贈与と違い、様々なルールが存在します。

ここでは、この制度について詳しく解説していきます。メリットとデメリットをしっかりと理解してから、一括贈与するかどうかを検討してみましょう。

目次

贈与税の非課税制度、教育資金一括贈与とは?

この制度は、贈与税の非課税枠を拡充することで、たくさん貯蓄を持っていて日本で一番の富裕層と言われている高齢者の世代から、相続時よりも前の段階で高齢者の貯蓄を子供や孫の世代に移して消費を刺激し、景気拡大につなげたいという政府の狙いから作られたといえるでしょう。

現在の高齢者が亡くなるころには、子供の子育ても終わってしまっている時期です。

子供の教育等、一番お金がかかる時期に贈与してもらえるので、贈与される側にとってもよりありがたいと言えます。

しかし、この制度にはいくつかのルールがあり、使い道を自由に選択できる「暦年贈与」とはかなりの違いがあります。

それでは、この制度の仕組みやそのメリット、デメリットについて詳しく見ていきましょう。

教育資金の一括贈与制度、その仕組みとは?

この教育資金一括贈与制度は、直系尊属より、子供、孫、ひ孫などに対して教育資金を非課税で贈与できる制度です。

贈与を行える期間は平成31年3月31日までに延長されました。

贈与を受ける側は一人につき1つ、この制度専用の口座を銀行などの金融機関で開設します。そして、一人につき1500万円までの贈与を受けることができます。

ポイントは「一人一口座、1500万円まで」というところで、例えば父の祖父母、母の祖父母、両方から贈与を受けたい場合は、両方合わせて1500万円までとしなければなりません。

両家から1500万円ずつをもらうことはできないので注意が必要です。

また、贈与を受ける側が30歳になると制度が終了します。

もし教育資金口座に資金が残っていた場合は、その時点で「贈与を受けた」こととなり、贈与税を支払わなくてはなりません。よって、使いきれる額を贈与することが重要となってきます。

一旦この教育資金口座に預けたお金は30歳まで解約したり、他の用途で出金することができません。

お金が余りそうだから、子供が30歳になるのを待たずに祖父母に返そう、と思ってもできないのです。

贈与の限度額は1500万円ですが、その用途は学校などに支払う費用に限定されます。

しかし、1500万円のうち500万円までは、塾や習い事など学校以外の費用であってもよいとされています。

教育資金の一括贈与制度、銀行などの金融機関で申し込みを

この教育資金一括贈与制度を利用するには、銀行などの金融機関で、専用の口座を開設することが必要です。

手数料等を無料としているところもあり、信託会社、信託銀行、銀行、証券会社などで開設できます。

非課税措置を適用できるように税務署に申告等をしなければなりませんが、そのような手続きはすべて金融機関が代行してくれますので心配ありません。

教育資金の一括贈与、そのメリットとは?

この教育資金一括贈与の制度での一番のメリットは、1500万円という大きな額を非課税で贈与できるということです。

1500万円を通常に贈与すると400万以上の大きな贈与税がかかります。それを非課税で一括贈与することができます。

また、この制度によって贈与された資金は、相続財産への加算となりません。

通常であれば、相続が発生したときから3年間さかのぼり、その期間に行われた贈与も「相続であった」とみなして相続財産へ加算され、その合計額を元に相続税の算出がなされます。

しかし、この制度で行われた贈与資金は相続財産へ加算されることがありません。これは大きなメリットといえるでしょう。

病気をしてしまったり、相当高齢で、あとどれくらい生きるかわからないな、と高齢者が考え、相続財産を少しでも減らすために死ぬ前に贈与をしようと考えたとしても、3年はさかのぼられてしまいますので、その贈与が意味をなさない場合もあります。

しかし、この制度を使えば3年さかのぼって加算されることもなく、どの時期においても相続財産に加算されることはありませんので、その点では安心できます。

贈与された側が30歳になるまでの期間に贈与した側が亡くなっても、この制度は存続し、30歳になるまでは教育資金口座内のお金を、教育資金として今まで通りに使うことができます。

教育資金の一括贈与、そのデメリットとは?

この教育資金一括贈与の制度のデメリットとは、やはり一旦贈与した場合は解約できないということでしょう。

老後の生活が予想外に厳しくなってきたので、一部の資金を返してほしいと考えることもあるかもしれません。

しかし、贈与された側が30歳になるまでは、贈与された金額は金融機関の預かりから解約できず、教育の用途以外で引き出すこともできないのです。

もう一つのデメリットとしては、お金が残ってしまった場合は贈与税が課されてしまうということです。

孫のためにと思って最大額の1500万を贈与したとしても、30歳の時点でもしもお金が残ってしまったら、贈与税がかかってしまいます。

一般的に贈与税は相続税よりも税率が高く設定されていますので、このようにお金が余ってしまうと相続よりも割高な税金を支払わなければなりません。

よって、贈与された子供がどのような学校に行くかということをある程度念頭に置き、贈与額を計算する必要があります。

中学校、高校、大学と、私立に行くのか公立に進むのかで大きく教育資金の額が変わってきます。理系か文系かというところも大きいですね。

また、留学に関しては、平成27年4月1日より、留学先の学費に加えて渡航費もOKとなり、留学に関する費用で、この贈与を適用できる範囲が広くなっています。

将来留学する可能性があるかどうか、というところも大きなポイントです。

教育資金一括贈与の制度、適用されるにはすべて領収書が必要

この制度では、領収書をしっかりととっておかなければなりませんので、手間がかかる点もデメリットです。

基本的には、領収書を金融機関に提示してからその分の金額を出金することとなります。

あらかじめ教育費等の支払日以前に金融機関から出金する方法や、金融機関に直接支払いを依頼する方法などの前払いも認められていますが、どちらにしても正式な領収書等、証明書類の原本の提出が義務とされています。

この教育資金に使えるもの、使えないものの判断が難しく、悩むことが多いようです。

その点もデメリットと言えるでしょう。

一部ですが、この教育資金を使えるもの、使えないものはこのようになっています。

学費関係

○受験料、入園料、入学金、保育料、授業料、施設設備費、通信教育費、保育所一時預かりの費用

○ランドセルやカバン、教科書や制服、体側服などの学用品購入

○通学定期、留学渡航費、入学に必要な転居の際の交通費

○給食代、スクールバス代、遠足費、修学旅行費、部活動費

○寮費

○謝恩会費

×留学における空港までの交通費、現地での滞在費

×同窓会費

×学校への寄付金、奨学金の返済

×下宿代

×それぞれの支払い時の振込手数料

習い事関係

○ピアノやサッカーなどの習い事代

○合宿代、遠征費用

○資格試験の受験料や、大会等の参加費用

○自動車学校の費用、免許の検定料、更新料

×ピアノやボール、グローブなど習い事に必要な備品の購入(指導者からの直接購入は良いが、個人的に購入した場合は適用できない)

このように細かく決められているので、一つ一つ適用できるかどうかを確認し、かつ領収書が必要な点がデメリットといえます。

教育資金一括贈与制度、平成27年度に改正された点は?

この教育資金一括贈与制度は平成27年度に改正され、制度自体の延長がなされ、平成31年3月31日までとなりました。

また、今まで認められていなかった「留学の渡航費用」が適用となりました。

これにより、留学の渡航費、学費、寮費の3点すべてが認められることとなりました(下宿費用は適用外)。

また、大層手間がかかっていた領収書の点でも見直しがなされました。

平成28年1月1日以後に提出する書類については、領収書等に記載された支払金額が1万円以下で、かつ、その年中における合計支払金額が24万円に達するまでのものについては、領収書に代えて、支払先・支払金額等の明細を記載した「少額教育資金支払い明細書」の提出でよいということになりました。

習い事など、毎月の支払いが1万円以下のものはこの明細書への記載でよくなったため、領収書を毎月もらう必要もなくなりました。

利用者側からすれば、使い勝手が良くなったといえるでしょう。

教育資金の一括贈与を行ったが、贈与者が死亡したときは?

教育資金の贈与者が死亡した時でも、この教育資金一括贈与に関する教育口座内の資金は相続財産とみなされず、そのまま贈与を受けた者が30歳になるまで非課税で教育資金を利用することができます。

相続が発生した場合でも、他の財産と確実に分離され、贈与された側のお金として取り扱われるので、自分の意思で確実に、贈与したい相手に非課税で贈与できる制度と言えるでしょう。

高齢者が元気なうちに「(例えば)孫にも自分の財産を分けたい」と思ったとします。しかし相続時に、相続財産がどれくらい、誰に分けられるのかということは、自分の死後のことなので、ある意味どうなるかわかりません。

しかし、この制度を使えばかなり大きな額を、自分の意思で、自分が財産を渡したい相手に確実に贈与することができますので、この点はメリットといえます。

暦年贈与と比べて、教育資金一括贈与はメリットがあるか?

毎年110万円まで非課税になる「暦年贈与」と比べて、この「教育資金一括贈与の制度」はメリットがあるのでしょうか?

この教育資金一括贈与の制度は、確かに1500万円という大きな金額を非課税で贈与できますが、使い道がかなり限定されているという点が大きなデメリットです。暦年贈与であれば、使い道に制限はなく、どのようなことにも自由に使えることができます。

また、相続が発生した場合、暦年贈与された分も3年間さかのぼって相続財産として計算しなければならない、という決まりがありますが、孫は「相続人ではない」ので、暦年贈与でもこの決まりが適用されません。つまり、孫に暦年贈与として贈与された分は、相続があっても関係ないものとして取り扱われ、相続財産として差し戻しされることがないのです。相続財産への差し戻しがないという点でも「暦年贈与」と「教育資金一括贈与制度」は条件が同じとなります。

このように考えると、毎年こつこつと暦年贈与を行なう方が良いと考える人も多いのではないでしょうか。

贈与された側も好きな使い道にお金を使うことができますし、自分の老後の資金の状況を考え合わせながら贈与ができるため、

「老後の資金が少なくなってきたから、今後は贈与を控えよう」と臨機応変に対応することもできます。

また、贈与以前の根本的な問題なのですが、祖父母は「扶養義務者」でもあることから、学費など、生活に必要なお金を贈与する場合は税金がかからないことになっているのです。

入学金や学費の納入時期ごとに子供にお金を渡す、というパターンでは、扶養に必要なお金を渡しているということになり、贈与税がかかりません。つまり、一括贈与の制度を使わなくても孫の学費の援助はできるということになります。

これには注意点があり、必要なたびにその都度、というのが条件です。大学4年分の費用として400万円を一度に渡した場合は贈与税がかかってしまう場合もあります。

学費の納入時期などに合わせて、その都度お金を渡すようにするのがポイントです。

以上のことを考え合わせると、教育資金一括贈与のメリットは、「自分が元気なうちにまとめて贈与することができる」ということ、「相続財産を手早く減らせること」の二点と言えるのではないでしょうか。

暦年贈与ですと、年間110万円までですので、1500万円の贈与を行おうとすると、14年以上かかる計算になります。その頃まで元気でいられるか、ということは誰にもわかりません。

自分がそこそこの高齢に達していて、気長に贈与することが難しいかもしれないと考える場合は、この制度を利用する価値があるでしょう。

まとめ

教育資金一括贈与の制度は、金融機関に領収書を提示しないとお金を引き出せないなど厳格なルールがあるため、利用するかどうかは慎重に考える必要があります。

また、相続や贈与などお金に関することは、親族内でも不満の元になることもありますのて注意が必要です。

「自分の子供はもらえなくて、兄の子供にだけ贈与があった」などということになりますと、そこから兄弟の不仲につながることにもなりかねません。

将来にわたって家族や親族皆が気持ちよく、仲良く過ごしていくためには、相続や贈与といった問題は慎重に考える必要があるのです。

そのように考えると、一人に多額の贈与をするよりも、「ひとりひとりに110万ずつ」の暦年贈与をする方が平等で、争いの元にもならないでしょう。

孫が5人いた場合、110万×5=550万なので、1年に550万の贈与を行なうことができます。

孫への贈与は一世代飛ばすことにもなるので、節税効果も大きくなります。

何よりも、毎年贈与を行えば、毎年感謝され、喜ぶ顔が見られるという予想外の効果もあります。一度の贈与より、細かく何度も贈与した方が喜ばれるものです。

教育資金一括贈与の制度だけではなく、孫への暦年贈与にも、節税の面、親族皆の気持ちという面でもメリットがたくさんありますので、よく考えてから贈与の方法を決めるようにしましょう。