妊娠中の子宮の中は、「羊水」という液体で満たされています。
赤ちゃんは、この羊水の中に浮かんでいる形になります。
赤ちゃんを包んでいる羊水には、どのような役割があるのでしょうか?
また、羊水という液体の中にいて、赤ちゃんはどのように呼吸をしているのでしょうか?
今回は、意外と知らない羊水のことについて紹介していきます。
羊水とは?
妊娠中のお母さんの子宮の中を満たし、赤ちゃんを守っている液体が羊水です。
妊娠すると子宮内では、赤ちゃんを囲むように3層からなる「卵膜」と呼ばれる袋状の空間ができます。
卵膜の一番内側(胎児の側)の膜を羊膜といい、羊水と胎児はこのような薄い透明の膜で包まれた空間に包まれています。
羊水は、無色透明でアルカリ性の性質をもっており、常に38度ほどの温度で保たれています。
妊娠初期の頃の羊水の成分はよく分かっていませんが、母親の血液中の液体成分である血漿などが主成分だと考えられています。
妊娠中期以降は、胎児自身も羊水を作るようになります。胎児が作り出す液体成分の代表的なものは尿ですが、その他にも、気道や消化管などから分泌される液体成分も、羊水の一部となります。
子宮内は閉じた空間なので、羊水もその中を循環します。胎児は、羊水を飲み込んで腎臓で濾過し、再びきれいな状態にして排出し循環させています。
羊水の役割は?
赤ちゃんを保護するクッションの役割
羊水の役目は、胎児を保護することです。子宮の中は、液体で満たされていることでその空間が安定的に保たれています。
万が一お母さんが転んだり、お腹を何かにぶつけてしまったとしても、液体の入った空間があることで胎児に直接衝撃が伝わらず、守ることができます。
羊水は赤ちゃんを受け止めるクッションのような役割を持っているのです。
運動空間の役割
胎児は羊水という液体の中で、自由に運動して筋肉や骨格を発達させます。
子宮の中で体を動かすことで、筋肉や骨などの発達を促すのです。
この動きは、当然お母さんにも伝わりますが、液体があるおかげで直接は伝わりにくくなっています。
胎児の動きを胎動として感じられるようになるのは、妊娠18~20週頃からです。
肺や腎臓機能を発達させる役割
羊水の機能の中で最も大事な役割は、胎児の肺の機能を育てる役割です。
羊水の中にいる間、胎児は、外に出る日に備えて呼吸の練習をしています。
空気の代わりに羊水を肺に取り込み、外に吐き出すことで呼吸の練習をします。
飲み込んだ羊水は、吸収され体内を巡り、腎臓でろ過されて尿として排出されます。
腎臓や消化管の発達にも深く関係しているのです。
赤ちゃんが羊水を飲む=呼吸の練習!?
胎児は、羊水を飲んで呼吸の練習をしていると前述しました。
その運動のことを、「呼吸様運動」といいます。出産が迫ってくる妊娠後期になると、胎児は、羊水を飲んで肺を膨らませ、再び吐き出すという練習を始めます。
実際の呼吸は空気を吸い込んで吐き出すものなので、胎児が液体を用いて行っているこの動きとは違いますが、吸って吐くという行為が呼吸に似ている運動のため、呼吸様運動と呼んでいます。
胎児の実際の呼吸は、胎盤と繋がっている臍帯(へその緒)を通じて行われているので、呼吸様運動で実際に呼吸をしているわけではありませんが、この運動は、肺機能の完成と成熟を促すのに必要不可欠な運動です。
肺は、肺胞と呼ばれる小さな袋状のものがブドウの房のように連なって呼吸の場として機能しますが、この袋をしっかり作るためにも、羊水を飲み込む呼吸の練習は大事なのです。
羊水の量はどれくらい?
羊水の量は、胎児の成長によって変わってきます。
妊娠10週目には約30mlほどだったものが、妊娠20週には約350mlになります。
30~35週にピークを迎えて、約800mlとなり、その後徐々に減りはじめます。出産直前の40週を過ぎると500ml以下ほどにまで減少していきます。
羊水の量は、多過ぎても少なすぎてもいけません。
そのため、定期検診の超音波検査で、羊水の量が適切かどうかを調べます。羊水を調べることで、胎児の状態を知ることができます。
羊水が多すぎるとどうなる?
羊水の量が800mlを超えると「羊水過多」と診断されます。
羊水が多すぎるということは、胎児が羊水を飲んで吸収する量よりも、尿として出す量が上回っているということを示します。
尿を過剰に作りすぎているのか、もしくは胎児が飲んで吸収する量が低下しているということで、胎児の発育に影響が出てくるため、早めに原因を突き止めなければいけません。
消化器系の他、脳神経系に異常がある可能性もあります。
また、羊水が多過ぎるとその分お腹が張るので、切迫流産や切迫早産を引き起こす恐れもあります。
お腹が張る、呼吸が苦しいなどの症状が強い場合は、医師に相談してください。
羊水が少なすぎるとどうなる?
逆に羊水が少なくなる場合もあります。
「羊水過少」と診断されるのは、羊水量が100ml以下の場合です。
羊水量が少ないということは、胎児を守る役割をするクッションが減っているということです。中にいる胎児の快適性だけではなく、安全性も失われます。
また、飲むことができる羊水が少なくなるので、肺の活動も低下してしまいます。
胎児の健全な発育を妨げるので、とても深刻な状況です。
羊水過少が起こる原因の約50%は、妊娠37週以前に起きる「前期破水」です。
破水は、子宮内の水が外に出ていくことなので、当然、羊水が大量に失われます。その他の原因としては、胎児自身の腎臓や泌尿器系の異常も考えられます。
妊娠中期になってもお腹があまり大きくならないような場合、羊水過少症の可能性も考えられます。かかりつけ医に相談してみましょう。
出産時にも大切な羊水の役割
妊娠中にとても大切な羊水ですが、出産の際にも大きな役割を果たします。
出産前の陣痛では、子宮が大きく収縮します。その子宮の収縮から胎児を守るためにも、羊水は役目を果たします。
また、羊水は、子宮口を押し広げて破水します。
赤ちゃんの通り道となる子宮口を広げ、産道を潤すことで、出産時に胎児の体が滑りやすくなり産道を通りやすくする働きもあります。
そのため、破水してから胎児が生まれてくるまでにあまりにも時間がかかる場合は、注意が必要となります。
切迫早産の中でも、この、事前に破水が起きてしまうことが一番緊急を要する状況です。
まだ出産予定日ではないのに破水してしまったら、大至急、病院を受診しましょう。
まとめ
以上、羊水の働きについてみてきましたがいかがでしたか?
かつて、「高齢出産の女性は羊水が汚れている」等の発言をしてバッシングを受けた歌手がいましたが、羊水は妊娠後に新しく作られるもので、年齢による劣化などはありません。
また、妊娠中は、胎児自らが飲み込んで、腎臓でろ過して排出するという作業をしているので、常にきれいな状態に保たれています。
呼吸器系の発達にも、腎臓・泌尿器系の発達にも欠かせない羊水。羊水の量の変化にも気を付けておきましょう。
暖かな海のような羊水の中に浸かりながら、赤ちゃんは外の世界に出ていく日に備えてさまざまな準備をしているのですね。
参考文献:日本産科婦人科 3.羊水・羊膜