ファンダメンタルズとは、経済の基礎的要因のことで、為替レートは長い目で見ると国力が反映されるものなので、ファンダメンタルズが密接に関係してきます。
ファンダメンタルズは、基本的に景気や物価・金利・経常収支・通貨政策を意味し、最も為替相場に影響があるのが通貨政策です。
例えば、米国の通貨政策は、世界中の為替相場に影響を及ぼします。
ここでは、このファンダメンタルズについて為替相場にどのように影響を及ぼし、その理論を使ったファンダメンタル分析についてご紹介します。
公表される統計やニュース等から予測する「ファンダメンタル分析」
中長期的相場動向を把握するために、公表された統計・ニュースソースから経済政策や政治、国際情報などの色々な情報を組み合わせて為替市場のトレンドを予測する方法がファンダメンタル分析です。
このファンダメンタル分析は、冒頭で上げたような色々な情報を材料にして分析します。
為替相場に関係している情報は広範囲に広がっているので非常に自由度が高い分析方法と言えます。
その一方で分析する人材の主観や願望といった分析に不必要な要素が入りやすく、精度が高い分析をするには情報を取捨選択して分析方法を改善していく必要があります。
ファンダメンタル分析の主要な材料
経済統計や要人発言、金融政策などを判断材料にして、注弔意的な為替相場の方向性を予測する方法がファンダメンタル分析です。
実際にどのように情報を使って為替相場のトレンド予測をするのかご紹介しましょう。重視される情報の種類と一緒に考えてみましょう。
雇用統計に代表される「経済指標」
経済指標とは、各国の政府や経済関連の省庁から発表される指標のことです。
主に物価、金利、景気、貿易に関する指標です。
中でも大きな影響を与える指標は、GDP、景況感調査、消費動向、雇用統計などがあります。
近年トレーダーから注目されている指標は、米国雇用統計の非農業部門雇用者数と失業率です。これは発表頻度や統計調査の対象範囲の広さから分析にしばしば使われます。
このような経済指標は、発表前に調査会社や証券会社のアナリストによる事前予想がされることにより、為替市場はそれらを参考に売買をする傾向があります。
また、予想する側も実際の内容と大きく違うということがあまりありませんが、事前予想と大きく違う場合は相場にとってサプライズになり、大きく荒れることがあります。
以下は各国の主要な経済指標です(分野別)。
- アメリカ…雇用統計・小売売上高・貿易収支・鉱工業生産
- ヨーロッパ(EU)…小売売上高・貿易収支・鉱工業生産
- 日本…貿易収支・鉱工業生産
その国の景気を表す「金融政策」
金融政策はその国の中央銀行が行う経済政策のことです。為替相場ではこの政策金利の調整に注目が集まり、例えば景気が過熱したときは政策金利の引き上げを行います。
金利引き上げは利上げとも言います。利上げを行うと住宅や車を購入する際のローン金利も引き上げられるため、消費が抑制されるので消費の伸びが緩やかになります。
また、逆に景気が後退している時は利下げ(利下げの逆)を行います。
先ほどの住宅や車のローン購入の金利も下げられ、消費行動を促します。為替相場は利上げになると内外金利差が拡大して通貨高になります。
その逆に、利下げなら金利差が縮小して通貨安になります。
直近の日本では、デフレ脱却のために3本の矢として大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略を打ち出したアベノミクスと、日銀の異次元緩和が注目されている金融政策です。
金融政策の方向性を明らかにする「要人発言」
為替相場を動かす要因の一つに経済施策を担っている担当大臣やその関係者、中央銀行の総裁などの発言があります。
この要人発言は国の経済活動の実態を把握して今後の見通しを示していることもあるので、その結果相場が動くことがあります。
つい最近ではイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が「米利上げの論拠、この数カ月で強まった」と発言しただけで為替相場が動きました。
要人発言は一国の元首でなく、経済や金融担当大臣が注目されます。その理由は経済・金融担当として景気や現状の見通し、金融政策がある程度明らかになるからです。
財務大臣や中央銀行総裁の発言や会見は担当する官庁や中央銀行で要約と完全版が掲載されますが、取引に生かすには即効性がありません。
いち早く知りたい場合はインターネットによる専門情報サイトや情報ベンダーのヘッドラインを利用しましょう。
需給による要因
為替レートが動く要因として経済的な要因以外に需要と供給のバランスがあります。
為替取引の需要は、貿易による為替取引・投資家の外積投資の為替取引・海外企業の投資による為替取引が影響します。
財務所は国際収支統計を発表しているのでそこから需給バランスを読み取ることもできます。
この国際収支統計は経常収支・資本収支・外貨準備増減の3つから作成されています。
以下この3つについてご紹介します。
経常収支
経常収支をわかりやすく分野別に分けました。
経常収支は貿易・サービス収支と所得収支と経常移転収支を足したものです。
経常収支の4つの項目について以下に解説します。
経常収支 = 貿易・サービス収支 + 所得収支 + 経常移転収支 | ||
通貨政策 | 所得収支 | |
● 貿易収支
・輸出 ・輸入 ● サービス収支 ・輸送 ・旅行 ・その他サービス |
● 雇用者報酬
● 投資収益 ・直接投資収益 ・証券投資収益 ・その他投資収益 |
●経常移転収支 |
貿易収支
貿易取引によって生じた取引額の差し引きを指します。輸出が輸入を上回ると貿易収支は黒字になります。日本は基本的に黒字ですが、赤字になることもあります。
サービス収支
輸送、旅行、通信、建設、保険、金融、情報など、サービス関連の取引を計上したものです。日本は基本的に赤字です。
所得収支
日本人が海外で稼いだお金から日本で外国人が稼いだお金を差し引いたものです。所得収支は黒字で、近年は増加傾向にあります。
経常移転収支
政府間の無償資金援助、国際機関への拠出金などを計上します。一方的な支出により常に赤字です。
この4つの項目から構成される経常収支は、連続して黒字ですが円安が進行する、エネルギー関連や資源などの輸入価格が高騰すると貿易収支単体で単月赤字になることもあります。
そのため、黒字が徐々に縮小するという見方をしている評論家もいます。
貿易収支が為替レートに影響するのは、日本の黒字が多くなると日本国内に外貨が多く滞留しているということです。
そして、その外貨は、どこかで円に替えられる可能性があるので円高になるということです。
日本はとうに輸出産業比率が高いので、貿易収支の黒字や赤字が直接為替レートに影響してきます。
資本収支
資本収支は投資収支とその他の資本収支を足したものです。
資本収支 = 投資収支 + その他資本収支 | |
投資収支 | その他資本収支 |
●直接投資
●証券投資 ・株式 ・債権 ●金融派生商品 ●その他投資 |
●資本移転
●その他資産 |
投資収支
居住者・非居住者間の金融資産産負債の取引を計上するもので、直接投資、証券投資、金融派生商品、その他の投資に分類されています。
その他資本収支
居住者と非居住者間の固定資産および非生産非金融資産の取引を計上する項目で、投資収支に該当しない資本取引です。
2つの項目から構成される資本収支は、端的に言うと国内投資と海外投資の額を差し引いたものです。
国内投資が多い場合の資本収支は黒字、海外投資が多いと赤字となります。
そのため外国為替市場の資本収支の取引金額は圧倒的に多く、対顧客市場の拡大・機関投資家による積極的な投資取引が拡大したものと考えられています。
ただし、近年赤字になったこともあり、投資収支は資金流出しています。
外貨準備増減
通貨当局の管理下ですぐに利用可能な対外資産の増減を計上したものです。貸幣用金・SDR・IMFリザーブポジションを含みます。
この外貨準備増減は日本の外貨準備高の増減をみており、増えるとマイナス、減るとプラスと表記されるので注意が必要です。
2005年以降外貨準備増減はマイナスが続き、外貨準備高が増加していることがわかります。需給バランスでは円買いの動きが円高、逆は円売りの動きが円安要因となります。
その他の要因
為替レートにはファンダメンタルズ、テクニカル要因、需給要因以外にも政変・テロ・戦争・経済危機などによっても大きく変動します。
最近の為替相場を動かしたこのその他の要因についてご紹介します。
金融危機
90年代の後半にアジア通貨危機やロシア通貨危機といった複数の金融危機が発生しました。
アジア通貨危機の時には米ドルは買われましたが、ロシア通貨危機ではそのことが影響して米国ヘッジファンドが破綻してしまいました。
米国金融危機懸念が高まり、米ドルは売られる結果になりました。2007年のサブプライムローン問題(リーマンショックの原因)でも米ドルは売られています。
資源価格の影響
原油価格の高騰は経済活動に直接影響があります。米国は、世界中でも最も石油依存度の高い国の1つで、原油価格が高騰するとマイナスの影響が強固になります。
原油価格高騰は直接米ドルの下落要因材料になることがあります。
地政学的要因
「有事のドル買い」という言葉がありますが、これは地域紛争が起きると米ドルが買われたことを意味しました。
ところが2001年の同時多発テロ以降は地域紛争やテロが起きても逆に米ドルが売られるようになりました。
「有事のドル買い」
この言葉が有効だった時代は米ドルが世界の基軸通貨として力を持っていた時の話です。
最近は、グローバル経済の進展で米国だけが圧倒的な力を持つという時代ではありません。
地域紛争や金融危機などの有事(特に2001年の同時多発テロ、2007年のサブプライムローンなど)が起こるたびに有事のドル買いではない動きが出ています。
90年代以降、特にこの16年の間に米国経済を取り巻く環境が大きく変わってきたということです。